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このディスク2021(海外編)My Pick 2021No. 285

#01 『Stefan Goldmann & .es / At A Moment’s Notice』
『シュテファン・ゴルドマン&ドットエス / 一瞬の知らせ』

text by 剛田武 Takeshi Goda

CD/DL: The Wormhole – WHO#20

Stefan Goldmann: electronics (tracks 1 and 3), electric guitar (track 2).
Takayuki Hashimoto: alto saxophone, shakuhachi, harmonica, guitar (track 3).
Sara: piano, percussion (track 3).

1. 29-09-2019
2. Echoes Of An Era
3. 12-07-2012 (featuring .es)

Produced by Stefan Goldmann. Mastered by Phil Julian, August 2020.

Track 1 recorded live at Cafe OTO, London, by Adam Matschulat. Written and mixed by Stefan Goldmann. Track 2 written, recorded and mixed by Stefan Goldmann. Track 3 recorded live at Nomart Gallery, Osaka. Written by Takayuki Hashimoto, Sara Dotes and Stefan Goldmann.

Bandcamp

彼世から此世へ一瞬で伝わるリアル・ミュージックの置き土産

気鋭の音楽家にして個人的にも良き友人であった橋本孝之氏の当然の逝去の報はコロナ云々など吹き飛ばす大きな衝撃だった(⇒ジャズを聴かない橋本君へ~自分語りに終始した追悼文)。本作は5月10日の橋本の死の3か月後にリリースされたベルリン出身の電子音楽シュテファン・ゴルドマンの最新作。2012年7月12日大阪ギャラリーノマルに於けるゴルドマンと .es(ドットエス)=橋本孝之+saraとの共演ライヴ音源が収録されている。

ぶっつけ本番の即興演奏。金属的なエレクトロニクスがギャラリーのナチュラルエコーで輪郭が曖昧になり霧と化して会場を包み込む中、鋭角的な橋本のサックスが霧笛のように切り裂き、saraのピアノが雨粒となって弾ける。反復する電子音とパーカッションに鋭角的なフラメンコギターや慈しみのハーモニカが共鳴し合い、狭い画廊に無限のサウンドスケープを現出させる。

当時の音源を使ったアルバムをリリースしたい、というオファーがゴルドマンから橋本に届いたのが2020年8月。その際にトリオセッションの音源を聴いて、今聴いても面白いということで快諾した。それから1年経ち、2021年8月にリリースのニュースが届いたが、すでに橋本は他界しており、それを知らなかったゴルドマンは大変驚き残念がっていたという。奇しくもリリース元は時空のトンネルを意味するWormholeレーベル。まさにタイムカプセル、もしく遅れて届いた孤独のメッセージだろうか?異端音楽家の魂が「盤」という形で未来永劫に生き続ける証である。もしかしたら2022年も天国の橋本君から贈物が届くかもしれない。そんな楽しみに心躍らせる年の瀬もまた善き哉。(2021年11月24日記・12月16日追記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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