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GalleryNo. 291

Gallery #43 阿部薫の尺八サックス

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

阿部薫(1949.5.3~1978.9.9) は29歳で夭折、活動期間は10年足らずと言われているが、その短い活動期間中に数多くの楽器を手にした。主奏楽器はアルトサックスだったが、バスクラリネット、ハーモニカ、ドラムス、ピアノ、ギター、マリンバ、果てはシンセにまで手を出した。(変遷については細田成嗣の手になる「変遷する阿部薫のサウンド像について──録音受容史の素描」dommune/ele.king columns に詳しい。http://www.ele-king.net/columns/008082/index.php
しかし、ごく一時期阿部が手にした「尺八サックス」についてはほとんど知られていないのではないか。尺八は素人が簡単に音を出せるものではない。阿部はサックスのマウスピースをかなり強引に尺八の歌口に取り付け、ガムテープで固定して使ったようだ。
ほとんど唯一の記録と思われるのが 1995年に、生悦住英夫が主宰していたPSF Recordsからリリースされた『阿波薫/新宿 1970年3月』だ。阿部薫20歳の時の演奏で、場所は新宿 PitInnのニュージャズホール。piano – 千田けいいち、drums – 新田かずのりを率い、後半の演奏では <チム・チム・チェリー> のメロディに執拗にこだわって多彩な展開を見せ、翌年の東北セッションで迎える絶頂期を彷彿させる演奏を聴かせている。ピアノの千田とドラムスの新田については情報を持ち合わせないが、阿部に伍した素晴らしい演奏に耳を開かれる。
当時、小野好恵とともに阿部を東北に迎え入れた大場周治によれば、阿部は東北初演となる1971年7月日本楽器仙台店での演奏で尺八サックスを披露したものの、10月から12月にかけての東北大学、秋田大学、一関ベイシーを巡るいわゆる「東北セッションズ」では尺八サックスを演奏せず、帰京にあたって尺八を2本とも大場に手渡したという。話をまとめると、阿部薫が尺八サックスを演奏に用いたのは1年そこそこということになる。
阿部が東北セッションズの思い出に大場に託した尺八サックス2本が、7月8日〜8月8日、伊香保温泉近くのWorld Jazz Museum 21で開かれる「阿部薫写真展」で50年ぶりに初めて公開される。

♫ 関連記事 : 阿部薫について(横井一江)
https://jazztokyo.org/monthly-editorial/emb-21/

♫ 阿部薫写真展
https://jazztokyo.org/news/events/post-78441/

1970年3月、新宿
完全版東北セッションズ

 

 

 

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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