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ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報Jazz Right NowInterviewsNo. 274

連載第42回 ニューヨーク・シーン最新ライヴ・レポート&リリース情報
サラ・ヒューズへのインタビュー

最近、サックス奏者のサラ・ヒューズ Sarah Hughesと話す機会があった。彼女は、2019年の終わりに2枚目のリーダー作『The Drag』をリリースしたあと、自分のサウンドの新領域を実験し、探求し続けている(※彼女は自身の即興音楽を「The Original Drag」という名義で発表している)。

このインタビューでは、彼女の創造的なプロセス、実験へのアプローチ、そして次にどこに行くつもりなのかに焦点を当てた。

シスコ・ブラッドリー(以下、CB): いまの実験はどこに向かっていると思いますか?あるいは、どこに行きたいのでしょうか?

サラ・ヒューズ(以下、SH): 多くの場合に実験的だと思われているのは、単に楽しんで、練習して、新しいつながりを作り、可能であればコミュニティに取り入れようとすることでしょう。わたしは社会実験をするのが好きです。たとえば、アパート近くのファーストフードのドライブスルーで人びとのためにソロ演奏をしたり、郊外のせわしないショッピングプラザでそよ風に浮かぶごみ袋に入って遊んだり。最近、わたしの実験のいくつかは、安全でなかったり歓迎されなかったりするかもしれないなと気づきました。だからそういうことをしばらくやらないかもしれません。攻撃的であったり対立を引き起こしたりするほど邪魔になりたくはありませんが、好奇心をかき立てて問題提起すること、そこまでではなくて眉毛を上げるくらいでも大好きです。わたしは挑発的なことが好きなのでしょう。外向的なアイデンティティを商売でない音楽的なアイデンティティと組み合わせて使うと、興味深いシナリオやパラドックスや「他者性」の感覚を作り出すことができるのですよ。わたしもそうですけれど、人びとは信念とか仮定といったものに疑問を抱きますよね。だからわたしは想定外でランダムであることが好きです。こういった「ポップアップ」パフォーマンスを続けることへの恐れや配慮を持って実践し、懸念すべきかどうかを判断する必要があると思います。

どこに行きたいかって?わたしは自分のキャリアとして、ずっと自由にアートを作成できる、心地良くて信用できる場所を見つけたいと思っています。メッセージを効果的に発信できるようにしたいとも思っています。わたしの現在のメッセージは、「物事は、現状ほとんどの場合に本来あるべきもの、なりうるもの、なりそうなものではない」というものです。このメッセージは、社会正義、環境、官僚主義に関連しています。メッセージの発信方法に関しては、わたしの芸術のパレットが毎日拡大したり何かを見出したりしているようです。ルーパーやエフェクターに二度と触れまいと感じることもあれば、それらを試してセットアップの感情的な能力を拡張しようとすることもあります。詩や散文を書く方に向かっていて音楽の制作や作曲に没入すまいと感じる日もあれば、書かれたものがわたしの芸術に不可欠だと感じる日もあります。ただ絵を描くだけの日もあります。これらがすべて、わたし自身に創造力の真の源泉をもたらしてくれる蒸留過程であってほしい。すべてダメになっているのかもしれませんけれど。

CB: これまでのところ、実験によって何が明らかになったのでしょうか?

SH: 実験はわたしの人生のスパイスだと思います。そして、できれば、わたしたちを統治している人たちにそのスパイスをたくさん投じたいと思います。COVIDとBLM(Black Lives Matter)を通じてすべてのことがあらわになる前は、アメリカも世界もすごくひどい状況は、高齢者がむかしから使ってきたソリューションに間違って固執するためだと素朴に思っていました。原始人類から高度な人類への進化は本当に急速に起きたのだし、わたしには間違いのように思えます。なぜわたしたちはネアンデルタール人が考えた実践と原則に固執するのでしょうか(誇張しているようですが、実際にはそうではありません)。「アーティストとして何かの原動力となるのなら、それは『もう一方』を生み出す力でなければならない」と思いました。太陽の下には新しいことは何もありませんけれど、自分の快適領域から抜け出し、パフォーマンスによって何か新しいことに挑戦する人は刺激を受けているのです。そういったステージのペルソナを大人の実生活、特に社会生活に適用できればいい。

CB: あなたの音のパレットはどのようなものですか?

SH: かなり多様だと思いますよ。わたしはアルトサックス奏者としてスタートしました。それがわたしのキャリアにおいてずっと主な声でした。わたしはクラシックのサックス技法を学び、バード(チャーリー・パーカー)のコピー譜を吹き、アルトでレニー・トリスターノの旋律を吹き、ニューイングランド音楽院のジャズプログラムでも演奏しました。アルトは暖かさと深みがすごくあるので好きなのです。でも、他の木管楽器のニュアンスを掘り下げるのも大好きです。ソプラノサックス、フルート、クラリネットも演るし、それぞれの楽器からインスピレーションを得てさまざまなキャラを探索するのが楽しいです。わたしのエフェクトペダルは、この数年の間、わたしのサウンドの大きな部分を占めています。ペダルにさまざまな和音をプログラムしておき、声と管の両方で使用します。ペダルにはさまざまなキャラがあって、わたしの声を子供や男性の声、ロボットの合唱に変えることができます。和音は、アクセスできるさまざまな「空間」、つまりさまざまな次元のさまざまな雰囲気を作り出すことを目的としてプログラムされています。正直なところ、まだ真剣にペダルを音のパレットに統合できていません。電子機器の音に悩まされることが多くて、実際に実を結ぶかどうかはわかりません、そうあってほしいですけれど。わたしと機械のようなものです。わたしはかれらに普通に復讐をしているようで、反対方向に走りたいと思っています。けれども、一方ではかれらの能力に魅了され、もうちょっとかれらと遊びたいと思ってもいます。ギターやヴァイオリンを試したりもしています。ところで、YouTubeの動画を観ても、わたしはまったくミュージシャンやアーティストに見えないと感じています。ヴィデオはかなり古くてほとんどひどいものです。不安というものがわたしのパフォーマンスやキャリアの巨大な要素でした。不安は音のパレットの一部になることができますかね?(笑)bandcampにアップしたレコーディングは好きです。

CB: サウンドを創り上げていくときに誰が大きな影響を与えたのでしょうか?

SH: そりゃあ、みんなですよ!

CB: 『Coy Fish』(>> bandcamp)の音楽はどのように創り上げたのでしょうか?それから、録音したあとどのように進んできました?

SH: 『Coy Fish』は、それまで一緒に演奏したことがない4人がスタジオで初めて会って模索しつつ録音するというケミストリー仕立てです。セッションに参加する人はわたしの直感で選びました。各々はいつ動きいつ黙るかのバランス感覚を持っています。わたしは、聴くスキルに頼って、ダクソフォンがもたらすおもしろいテクスチャやオプションによって、テンションや、冒険的な選択をする機会を生み出しました。<The Addict>には言葉を持ち込み、グループとしてどう料理するかを考えていました。

「先に進む」ことについてはわかりませんが、最新作の『The Drag』(>> bandcamp)には、作曲方法を拡張して、いくつかのグラフィックスコアを持ち込みました。だから、作曲の要素が少し増えたかなと思います。また、もっと録音後の操作をプロセスに入れようと思っていたこともあって、録音のセッションが『Coy Fish』のときよりも違う時間でした(よりリラックスしていて、より構造化されました)。

CB: ジャズシーンが性差別的ではないと考える人は鈍感そのものであるわけですが、シーンを改善するためには、どのように本質的に変わりうるでしょうか。

SH: さまざまな場所でなされていると思いますけれど…。ブラインドリスニング。男性と女性、老若男女を問わないパネル。音楽はスポーツではなく、ある人にとって騒音であっても別の人にとって交響曲だと認めること。あらゆる種類の多様性を支持すること。必要に応じて、定義を拡張し、新しい単語・カテゴリを追加すること。音楽が人間の精神の表現たるものだと認めること。人間の精神のニュアンスと色それぞれの美しさを理解すること。人びとがどのようにもっと自由になりうるのかを示す人間を示すこと。苦しんでいる人びとに声を与えることによって助けること―共感と理解のプログラムとして。非営利の(自由な)ジャズプロジェクトに金銭的支援を与えること。あらゆる種類のコミュニティの「ジャズ」オーケストラを始めること―包容力があり開かれたマインドを示しうる指導者に支援を与えること。必要に応じて、ジャズとは呼ばれなくても即興音楽の新しい領域があることを謳い、ジャズのエネルギーに悩まされたらそこに行けることを人びとに知らせること。

正直なところ、わたしはこういうことを話すような人ではないのです。わたしの理想的な世界は、自分たちが与えられた物理的なパッケージによって定義されるのではなく、人間の肉体に包まれたユニークなコズミック・スピリットとしてお互いを見る世界です。そんな考え方を誰もが気に入ったり、同意したり、理解したりできるわけではないことは、もうわかっています。わたしは長いこと孤独でしたし、33歳になるまで、自分が半分白人で半分韓国人であるとは思っていませんでした。つまり、今までそんなことを感じていませんでした。この空虚で誤解された定義の中に自分の精神を閉じ込めることを考えたら、泣いてしまいます。パッケージの包みについて話すことはしたくないし、そうできると信じています。そのパッケージが表現しようとしていることにこそ等しく傾注すべきです。暗黒時代に官僚的にわたしたちを縛り付けるような一括りの言い方や扱いに甘んじてはならないことを、わたしは固く信じています。

CB: 仮に過去にさかのぼって、だれか故人と話をしたり、演じたりできるとしたら、誰になりますか?そして、それはなぜ?

SH: アルバート・アインシュタインとなにかコラボレーションをして、時間や相対性理論について話をしたい。物理学が因果関係としてどのように機能するかを知りたいのですけれど、たとえば、わたしが今やっていることが過去に起こったことの影響であり、将来の影響の原因になるとして、わたしは無意識のうちにある種の円を形成しているのだろうか?そうでないなら、どのような形で、動物や人間に適用されるパターンや不変性があるのだろうか?その形を作らないことは可能だろうか、それともあらゆる知性がこのように機能するのだろうか?原因と結果の自然な形はわたしたちの未来をどのように予測するのだろう?逃げられるのだろうか?さまざまな波長、さまざまな速度、さまざまな次元で存在するエネルギーをひとつの時空間に持ち込むことができるのはどのような力なのだろう?わたしたちの種と惑星が生き残りたいなら、どの、誰の時空間が「正しい」時空なのだろう?

それからかれがわたしと一緒にフリー・ミュージックを演じてくれるかどうか、そして時間の進行を遅らせる音楽や芸術を考案するのを手伝ってくれるかどうか尋ねます(それで、人びとは自分の人生の時間内に未来のすばらしい状態に進化できる)。そしてまた、人びとが自分自身の選択で人間性を前進させる手助けをできるよう、深く、人生を変えるように、原因と結果を理解するよう働きかける。わたしはこのプロセス全体をヴィデオテープに録画し、現在に持ち帰り、口コミで広めるようFacebookにアップする。

CB: ベーシストのルーク・スチュワート Luke Stewartとのコラボレーション(『Alive With Luke』)(>> bandcamp)はどのように発展させたのでしょうか?どんなところに関心があったのでしょうか?

SH: ルークとわたしとのデュオは、必ずしも発展してきたというわけでもないのですが。2016年にボストンから戻った直後に、かれにギグをしようと誘われました。一緒に演奏するのははじめてでした。そのあとしばらくの間、わたしたちはそれぞれ自分自身のことをしていました。デュオ録音のもとになったリゾーム・コンサートの経緯は忘れてしまいましたけれど、かれの活動的なエネルギーレベルで会いたかったことを覚えています。かれの演奏領域にアクセスできるよう、IKEAで買ってきたスノコと弓ノコを持っていくことにしました。わたしはフリー演奏のときゆっくり浮遊して瞑想的なところに居がちなのですが、ルークがそこにいることも、かれと一緒にいたかったことはわかっていました。そんなふうにして、わたし自身の物語を展開しました。IKEAのスノコは、わたしの内部にいて即興を引き受ける語り手にとって、とても強力な道具です。即興演奏では、強制された行動、無駄な行為、休息という概念の脱構築、ライフスタイルや仕事の直感的な構築、「忙しさ」、倦怠感、脱構築後の喪失感といったテーマを扱ったことを覚えています。それ以外の瞬間はただちに火を熾すようなものでした。

ヒューズはヴィジュアルアーティストでもある。>> ウェブサイト

カヴァー写真:Gerar Dos Santos

【翻訳】齊藤聡(Akira Saito)

環境・エネルギー問題と海外事業のコンサルタント。著書に『新しい排出権』など。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

シスコ・ブラッドリー Cisco Bradley

ブルックリンのプラット・インスティテュートで教鞭(文化史)をとる傍ら、2013年にウェブサイト「Jazz Right Now」を立ち上げた。同サイトには、現在までに30以上のアーティストのバイオグラフィー、ディスコグラフィー、200以上のバンドのプロフィール、500以上のライヴのデータベースを備える。ブルックリン・シーンの興隆についての書籍を執筆中。http://jazzrightnow.com/

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