Nobuyoshi Suto / 須藤伸義
「ポール・ブレイの想い出」
最初に買ったポール・ブレイのアルバムは、彼自身のレーベル=IAIから1974年に発表された『Jaco』だったと思う。タイトルからも察せられるように、ジャコ・パストゥリアスebの他、パット・メセニーg、ブルース・ディティマスdrs及びブレイでの四重奏作品。ジャコとパットのレコード・デビュー盤でもある。当時(1990年代半ば)プログレ/フュージョンから、ジャズに入り込んだ筆者は、多分「前衛派ジャズピアニスト」のブレイがエレクトリック・ピアノを中心に弾いている作品という事以上に、フュージョン界の大物二人の名前に引かれて手に取ったのだと思う。すでに聴いていた、リターン・トゥ・フォーエヴァーやマハビシュヌ・オーケストラのようなロック的アプローチを期待していたせいか、あまり満足しなかった覚えがある。
その後、キース・ジャレット及びECMにのめり込み、関連作品として1970年発表の『Paul Bley with Gary Peacock』(ECM:録音1964&68年)、新作として1999年に発表された『Not One, Not Two』(ECM:録音1998年)を聴き、抽象的でありながら、透明度の高い耽美的世界観に大いに惹き付けられた。
そんな折り、NYCの“バードランド”に『Not One, Not Two』のプロモーション(?)で出演、という情報を得た。シカゴ大学の大学院生だった筆者は、ゲイリー・ピーコックdb/ポール・モチアンdrsを含む両アルバムのトリオを観たく、片道12時間運転して出かけた。クラブで接する彼らの演奏にいたく感銘を受けた。会話もトライしたのだが、ある程度誠実に答えてくれるゲイリーとポール・モチアンに比べ、ブレイは、掴みどころのない対応ではぐらかされた。しかし、奥方のキャロル・ゴスさんと席が隣同士だったので、幸い彼女から、色々話を聞くことができた。ピアニストだと言うと、「指の練習より、イメージ・トレーニングを中心に」と示唆を受けた。ブレイが常々言っている事らしい。
その後、しばらくブレイの演奏に接する機会に恵まれなかったのだが、2007年に同じピーコック/モチアンとのトリオでまた“バードランド”に出演した折りにも訪ね、JAZZ TOKYO掲載のため、ゲイリーにインタヴューをした。
翌2008年にペンシルバニア大学(フィラデルフィア)で、ブレイのコンサートが企画された。当時、バルチモア在住だった筆者は、友人のケン・ウェイス氏と共同で、ブレイ本人にインタヴューする企画を承諾してもらうことができた。詳細は、再掲載されたインタヴューをぜひ読んでみて欲しい。途中放棄された演奏を含め、何ともすべて「ポール・ブレイ」らしかった。
結局、それが、彼という音楽家を「生で体験した」最後になってしまった。
2016年1月12日、サンディエゴ。『Open, To Love』(ECM:1972年発表作品)を聴きながら。(心理学博士/ピアニスト)