JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 47,400 回

このディスク2016(海外編)No. 225

この1枚2016(海外編)#06 『mostly other people do the killing / MAUCH CHUNK』

text by Yumi Mochizuki 望月由美

hot cup Records hot cup 153

Jon Irabagon(as)
Ron Stabinsky(p)
Moppa Elliot(b)
Kevin Shea(ds)

1.Mauch Chunk is Jim Thorpe(for Henry Threadgill)
2.West Bolivar(foe Caetano Veloso)
3.Obelisk(for Dave Holland)
4.Niagra(for Will Connell)
5.Herminie(for Sonny Clark)
6.Townville(for Brieanne Beaujolais)
7.Mehoopany(foe Frank Fonseca)

Produced by Moppa Elliot
録音:2015年5月23日at Oktaven Audio
エンジニア:Ryan Streber

ジョン・イラバゴン(as)は今年の春、自身のレーベル「Irabbagast Records」から2枚のリーダー・アルバムを発表した。
一枚はソプラニーノによる完全フリー、一枚はトランペットとの2管によるオーソドックスなスタイル。
しかし、大上段に振りかぶったリーダー作もいいが、グループの一員として自分の与えられたパートを思う存分吹いたものが意外にもいい。

アルバム『Mauch Chunk』(hot cup Records)はモッパ・エリオット(b)のグループMOPDK「Mostly Other People Do the Killing」の新作であるがアルト一本に絞ったイラバゴンがメイン・ストリームとフリーの間を行き来しながら存分に暴れまわっているところが痛快極まりない。

前作の『MOPDK BLUE』(Hot Cup Records、2014)では多重録音でカインド・オブ・ブルーのコルトレーンとキャノンボールをそっくりコピーするという離れ業を聴かせてくれた。
コルトレーンのパートはトレーンの真髄にせまるそっくり賞ものであったがアルトのキャノンボールではキャノンボールの巨漢から発するあの図太い音はいまひとつのように聴こえた。
ここでのイラバゴンはそのうさを晴らすかのような変幻自在のアルトを聴かせる。
ユーモアを漂わせながら、時に見せる機関車の汽笛のような轟音はカークを彷彿とさせる。
例えば(2)<West Bolivar>のイントロではイパネマの娘の一節を用いながら主題に入るところなど一瞬ダンサブルなサロン・ミュージックのように思わせながら音を高速放射するところなど林栄一(as)と似た奇想天外な展開が面白い。
37歳にしてこの領域に達したイラバゴンが存分に暴れまわれる場である「Mostly Other People Do the Killing」の次の作品はどのような企画で登場するのかを心待ちしている。

最近MOPDKの2012年のポーランドでのライヴ作がリリースされたというニュースが入ってきたが一作ごとに変身してきたMOPDKはやはり新録が聴きたいところである。
2017年にはさらに進化したMOPDKの新作が出ることを期待してこの一枚に選出させていただいた。

 

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください