#05 『石田幹雄 / 時景』
text by Keita Konda 根田恵多
Gaia Records (GAIA-1007)
石田幹雄 (p)
1.輝彩
2.蛍友
3.平遠の赤霞
4.七申八寅
5.模(かたぎ)
6.ハリウスⅡ
7.心影
8.雲間の光
9.雪風
10.悠遠のはざま
11.回り合わせ
12.A.P.C.H
13.夜
2017年2月8日録音
今年の国内新譜は豊作だった。スガダイロー『季節はただ流れて行く』、板橋文夫オーケストラ『FUMIO 69』、廣木光一・渋谷毅『Águas De Maio 五月の雨』、鳴らした場合『ふつえぬ』などなどの傑作群から1枚に絞り込むのはとても難しかった。
悩んだ末に選んだのが、このピアニスト石田幹雄のソロ作。本誌239号掲載のレビューの言葉を引用するならば、「美しく可憐で瑞々しくシンプルで温かく思索的で気高く耽美的で儚く聴くものの人生にそっと寄り添うような佳曲ばかり」が揃った傑作だ。
かの”天才アケタ”こと明田川荘之は、2010年にリリースされた自身のアルバムのライナーノーツの中で、「(スガダイローと)石田幹雄という若き存在は、将来のジャズ・ピアノ界への不安をぶっとばしてくれる大朗報です!!嬉しい!」と記している。石田は2011年に早川徹(b)、福島紀明(ds)とのトリオで『瞬芸』をリリースしているが、その後の約7年間は、リーダー作を発表してこなかった。この間も石田は東京を拠点にライブ活動を続けていたが、天才アケタと同じ気持ちでいた筆者にとって、『時景』は本当に待ちに待った新作だった。
うなり声をあげ、足を踏み鳴らし、鬼気迫る表情でガンガンと激しく弾きまくる……そんな石田の姿はここにはない。身体の内側から絞り出すようにして、ひたすらシンプルに美しく音を紡いでいく。しかし、これは気の抜けた音楽ではまったくない。恐ろしいまでの集中力を感じるし、ある種の緊張感すら伝わってくるのだが、それでもスッと聴く者の心に入ってくる。
悩んだとは言うものの、筆者が「このディスク」に本作を選んだ理由は単純だ。2018年を通して1番聴いた回数が多かったのが本作だったのだ。この1年間、事あるごとにこの盤を手に取り、そのたびに「素晴らしい…」と心の中で呟きながら聴き入ってしまった。きっと10年後、20年後も同じことをしているだろうと思う。