#04 『Eric Dolphy / Musical Prophet (The Expanded 1963 New York Studio Sessions)』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Eric Dolphy / Musical Prophet (The Expanded 1963 New York Studio Sessions)
Resonance Records
- Jitterbug Waltz
- Music Matador
- Love Me
- ALone Together
- Muses for Richard Davis (Previously Unissued 1)
- Muses for Richard Davis (Previously Unissued 2)
- Iron Man
- Mandrake
- Come Sunday
- Burning Spear
- Ode To Charlie Parker
- A Personal Statement
- Music Matador (Alternate Take)
- Love Me (Alternate Take 1)
- Love Me (Alternate Take 2)
- Alone Together (Alternate Take)
- Jitterbug Waltz (Alternate Take)
- Mandrake (Alternate Take)
- Burning Spear (Alternate Take)
Eric Dolphy – alto saxophone, flute, bass clarinet
William “Prince” Lasha – flute
Huey “Sonny” Simmons – alto saxophone
Clifford Jordan – soprano saxophone
Woody Shaw – trumpet
Garvin Bushell – bassoon
Bobby Hutcherson – vibes
Richard Davis – bass
Eddie Kahn – bass
J.C. Moses – drums
Charles Moffett – drums
Bob James – piano
Ron Brooks – bass
Robert Pozar – percussion
David Schwartz – vocals
Recorded on July 1 & 3 1963, except 12 on March 2 1964
現在進行形のジャズではない、55年も前の音楽を今年の「このディスク」に選ぶのは反則であろう。しかし、エリック・ドルフィーを知ったことで人生を誤らせてしまった(比喩ではない)筆者にとって、2018年はこの作品がリリースされたという事実以上の衝撃はありはしない。たとえそれが想定内の音楽だったとしても、だ。
もう何年も前から、エリック・ドルフィーが1963年7月に録音した通称・ダグラスセッションの未発表音源がリリースされる、と言われてきた。この音源はもともと、1964年3月にチャールズ・ミンガスのグループで欧州に発つ前、友人のへイル・スミス(『Out There』に収録された〈Feathers〉の作曲者である)に託したスーツケースの中に収蔵されていた7時間半に及ぶテープの一部とのこと。テープは80年代、ジェームズ・ニュートンの手に渡り、一部が『Other Aspects』(Blue Note)として日の目を見ていた。本作は、テープに残された記録の大部分を占めるダグラスセッションから、オリジナルマスターが存在しないアルバム収録曲を改めてマスターした上で、大量の未発表音源から厳選した演奏を収録し、ボーナストラックとして『Out To Lunch』録音6日後に吹き込まれた「Jim Crow : A Personal Statement」(『Other Aspects』)の別テイクも収めている。一部(15, 16の2曲)は既に『Muses』(Marshmallow Records, 2013年)で公表されているものの、5~6時間あったとされるセッションの全てではないが、未発表曲が8曲も明らかにされた意義は決して小さくない。
100ページにわたるブックレット(国内盤は日本語訳付き)の内容も圧巻だ。共同プロデューサーのゼブ・フェルドマンとジェームス・ニュートンによる文章のほか、インタビューに名を連ねたのは、アルバム参加者のうち存命のリチャード・デイヴィスとソニー・シモンズ、故へイル・スミスの妻ファニータ・スミス、ドルフィーと共演歴のあるソニー・ロリンズ、ハン・ベニンク、ジョー・チェンバース、ドルフィーをリスペクトするニコール・ミッチェル、ヘンリー・スレッギル、オリヴァー・レイク、スティーヴ・コールマン、デヴィッド・マレイ、デイヴ・リーブマン(彼の告白には驚いた)、マーティ・アーリックら多士済々。その内容も、知らなかったことが多い。
肝心の演奏は、先ほど「想定内」とは書いたが、しかしドルフィーの音はアルトサックスであろうとバスクラリネットであろうとフルートであろうと、常に強烈に輝き、そして今も驚きに満ちていて、一音で完全にノックアウトされる(この音の前では、現代の多くのミュージシャンも霞んでしまうだろう)。そしてクリアにとらえられたリチャード・デイヴィスのベースもやはりスペシャルであって、改めて2人の歴史的デュオである〈アローン・トゥギャザー〉(のオリジナルテイク)に打ちのめされるし、やはりデュオの〈ミューゼズ〉(2曲ともマシュマロ盤とは違うバージョン)は〈アローン・トゥギャザー〉とは異なる幽玄美に耽る。一方でボビー・ハッチャーソンが参加した〈アイアン・マン〉〈マンドレイク〉からは確かに、約8カ月後の『Out To Lunch』への萌芽を聴きとれる気がする。未発表曲たちはテイクによって、ドルフィーのアプローチはさまざまだ。これでエリック・ドルフィーの音楽の秘密の解明が進むだろうか? 否、おそらく新たな謎が突き付けられただけに違いない。できうるならば、いつか7時間半のテープの全貌が隅々まで明らかになることを願っている。
エリック・ドルフィーが旅の途上で還らぬ人になってしまうのは、このセッションからほぼ1年後のことである。