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このディスク2018(海外編)このパフォーマンス2018(海外編)No. 249

#13 『Ask For Chaos / Gilad Hekselman』

text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

Hexophonic Music / motéma music MTM0284

+gHEX TTIO

Gilad Hekselman (g)
Rick Rosato (b)
Jonathan Pison (ds)

*Zuperoctave

Gilad Hekselman (g,b)
Aaron Parks (kb,p)
Kush Abadev(ds,pads)

  1. Prologu00001101 (solo guitar)
  2. VBlues*
  3. It Will Get Better+
  4. Tokyo Cookie*
  5. Stumble*
  6. Milton+
  7. Home To You*
  8. Little Song For You+
  9. Clap Clap*
  10. Do Re Mi Fa Sol+

Mixed and Mastered by Michael Perez0-Cisneros

Produced by Gilad Hekselman


夏の終わりに1年ぶりにニューヨークを訪れた。昨年の4月に29年のニューヨーク生活を畳んで帰国してから、2回目のニューヨーク訪問。昨年の8月は、数日の慌ただしい滞在だったが、今回は10日ほどの余裕を持った滞在だ。到着した翌日に真っ先に訪れたのが、ギラッド・ヘクセルマン(g)が出演するSmallsだ。拙著「New York Jazz Update」の出版記念イヴェントで、井上智(g)とコンテンポラリー・ギタリストについて語った時も、井上が教鞭をとったニュースクール大のコンテンンポラリー・ジャズ科で、最も印象に残った学生の一人にイスラエル出身のギラッドを挙げていた。私もニューヨーク時代に何度か聴くチャンスがあり、その理知的なプレイは印象に残っていたし、野心的なリーダー作はチェックしていたのだが、そのリーダー・ギグを聴くチャンスは、なぜか逃していた。やっと巡ってきた機会に期待は膨らむ。

拙著の中でも一章を割いて触れたが、ジム・ホール(g)を源流とするコンテンポラリー・ジャズ・ギタリストは、70年代から80年代にかけてパット・メセニー(g)、ビル・フリゼール(g)、ジョン・スコフィールド(g)、マイク・スターン(g)に受け継がれ、1970年代はハービー・ハンコック(kb,p)、キース・ジャレット(p)、チック・コリア(kb,p)、ジョー・ザヴィヌル(kb)ら、ピアニスト/キーボディストが牽引した新たなジャズの表現領域の拡大を、1980年代以降はギタリスト達が、グルーヴとハーモニーへの新たなアプローチで押し進めてきた。パットらの4大ギタリストの時代は長く続いたが、1990年代に入りカート・ローゼンウィンケル(g)がシーンに出現し、ジャズ・ギター・シーンは次のフェイズに突入したと言えよう。1990年代後半から21世紀にかけてマイク・モレノ(g)、リオネール・ルエケ(g,vo)、ラーゲ・ルンド(g)、ニア・フィルダー(g)、カナダ出身のマシュー・スティーヴンス(g)、チリ出身のカミーラ・メザ(g,vo)らが登場し活況を呈する。その本命は、ジュリアン・ラージ(g)だ。パット・メセニーと同じく、ティーンエイジャーで有能なギタリストの登竜門であるゲイリー・バートン(vib)のグループに起用され、様々なセッションや自らのリーダー・グループで、尖鋭的なプレイを繰り広げてきた。その世界観はジャズにとどまらず、ブルース、ブルーグラス、カントリー、フォーク、ポップ、オルタナ・ロックまで、アメリカで生まれた音楽全てを内包する。ラージの音楽は、パット・メセニーの音世界をさらに拡大して深化し、ゲイリー・バートンが創始したジャズ・アメリカーナを受け継いでいる。ポスト・モダン・ジャズ・ギターの父、ジム・ホールの最後の1年の2013年に、ジム・ホールは自らのトリオに、ラージを迎えたクァルテットでツアーを巡り、その最後のクリエイティヴィティの炎を高らかに燃え上がらせた。コンテンポラリー・ジャズ・ギターの松明は、ジム・ホールからジュリアン・ラージに受け渡されたのだ。王道を征くラージの牙城に、肉迫しているのがギラッド・ヘクセルマン(g)である。同郷のヨタム・シルバーステイン(g)は、ストレート・アヘッド、ブラジリアン・ミュージックのプレイで評価を上げたが、ギラッドは、独自のコンテンポラリー路線を追求している。アメリカン・ミュージックの申し子のラージとは異なり、アウトサイダーの視点で、コンテンポラリー・ジャズ・ギターとアメリカン・ミュージックを冷徹に分析し、自らのスタイルを構築している。

8月21日のSmallsでのギグには、リック・ロザト(b)、ジョナサン・ピンソン(ds)のgHex Trioで出演した。6作目のアルバム『Ask For Chaos』の先行リリース記念ライヴだった。ジム・ホール〜パット・メセニー〜カート・ローゼンウィンケルと連なるコンテンポラリー・ジャズ・ギターをしっかりと消化した、メロディ・ライン、ハーモニー、リズム、エフェクターを駆使した音色と、以前にサイド・マンとして聴いた時よりも、さらにアグレッシヴに進化を遂げている。ロサト、ピンソンのリズムも、ギラッドの奔放なインプロヴィゼーションをしっかりフォローしつつ、刺激を与えてプッシュする。2015年にリリースした前作『Homes』からの進化が鮮烈だった。ギラッドからニュー・アルバムを受け取った。ライヴでフィーチャーされたgHex Trioと、アーロン・パークス(p,kb)とクシュ・アバディ(ds)とのベースレス・トリオ、ZuperOctaveがフィーチャーされていた。コンテンポラリー・ジャズ・ギターの系譜に連なるgHex Trioとは、また異なる空間を広く感じさせるアプローチが斬新である。

12月に東京で聴いたジュリアン・ラージのトリオは、9月にデトロイトで聴いた時のエリック・ドゥプ(ds)に代わり、長年ビル・フリゼール(g)のトリオのメンバーを務めているケニー・ウォルセン(ds)が参加し、強烈なグルーヴと繊細なニュアンスが混在する奇跡的なアンサンブルを聴かせてくれた。2020年代のジャズ・ギターは、ジュリアン・ラージとギラッド・ヘクセルマンが切り拓くのだろう。

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【関連リンク】

Gilad Hekselman

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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