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特集『ECM at 50』No. 260

アーカイヴ ECM「ECMの音」黒田恭一

ECMの音ってどんな音? —−−ときかれたら、そうだな、とりあえず、ECMのレコードをかけると、普段より部屋がひろく感じられる—−− とでも答えることになるのかな。ふたつのスピーカーの後ろは、ごたぶんにもれず壁だが、その壁のむこうにまで音がひろがっているように感じられる。時に、目に入るものすべてがわずらわしく思えることのほうがよくわかる。
それに、そう、もうひとつ、忘れてはならないことがある。ECMのレコードの空気清浄効果だ。タバコをすえばなおのことだが、たとえタバコをすわなくとも、部屋の空気は、濁りがちだし、澱みがちだ。オゾン発生装置などという器用なものはおいてないから、濁りや澱みを解消しようとすれば窓をあけるより他に方法がない。ところが、ECMのレコードをかけると不思議なことに、空気がきれいになったように思える。そして、ありえないことだが、部屋の中の温度まで、二、三度低いような気がすることさえある。
そうした効果はおそらく、ECMのレコードの青い音に原因があるだろう。そういう音は、ハード・バップにうってつけの赤い音の対極にあるものといえよう。考えがそこまでいたれば、ECMのレコードの青い音が、そのレコードできける音にうってつけのものだということに、気づく。決して、音が音だけでひとり歩きしているわけではない。だから、ECMの音ってどんな音?—−−という問いに対して正確に答えるためには、そこできける音楽のことにふれざるをえない。

 

*初出:「ECM booklet」1975


黒田恭一(Kyoichi Kuroda) 音楽評論家。1938年、東京生まれ。 1999年、渋谷の東急Bunkamuraオーチャードホールのプロデューサーに就任。闘病までNHK-FMの「20世紀の名演奏」担当。著書に、オペラへの招待 (暮しの手帖社)。2009年、病没。

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