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特集『ECM at 50』No. 260

アーカイヴECM「目を離せないECM」野口久光

1969年、西ドイツで発足したジャズ・レーベル“ECM” がこの8年間におくり出した数々のユニークなジャズ・アルバム、それらを差しおいて私たちは1970年代のジャズを語ることはできない。
クラシックのベース奏者だった、西ドイツの青年、マンフレート・アイヒャーが創立、自らオウナー=プロデューサーとしておくり出した100枚を越すアルバムをならべてみるならば、彼アイヒャーのジャズに対する愛情、時代を先取りした鋭い洞察、クラシックや現代音楽に対する深い造詣がそのひとつひとつに裏付けされていることがわかる。
北欧の特異なジャズ・シーンから彼がスカウトしたテナーのヤン・ガルバレク、ギターのテリエ・リピダルといったすぐれた人材の紹介もさることながら、アメリカでまだその才能を充分認められていなかった頃のチック・コリアやキース・ジャレット、ゲイリー・バートンらのためのその才能をフルに発揮できる企画とチャンスを与えたアイヒャーの功績はきわめて大きい。日本で《ジャズ・ディスク大賞》がおくられたチック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』や同じくコリアの『ソロ・インプロヴィゼーション』、キース・ジャレットの『ソロ・コンサート』アルバムは“ECM”レーベルの信頼と人気を確かなものにした後世に残る名盤であり、ジャズ・レコードのプロデューサーの仕事としても敬服すべき業績といわなくてはならない。
このほか、リッチー・バイラーク、デイヴ・ホランド、ポール・モチアン、デイヴ・リーブマン、ラルフ・タウナー、ジョン・アバークロンビー、コーリン。ウォルコット、ゲイリー・ピーコック、アート・ランディ、エンリコ・ラヴァ、バール・フィリップス、ケニー・ホイーラーといった人材を起用したユニークな企画によるアルバムは常にジャズ・ファンの注目を集めている。
ジャズを音楽として見つめ、楽器の原音を忠実に捉えてきた“ECM”の録音のよさも、数々の《録音賞》の実績が物語っている通りであり、ファンたる者は新しいリリーズから目を離せないのが“ECM”ジャズである。

*初出:「ECM booklet」1975


野口久光(Hisamitsu Noguchi)
1909年、東京生まれ。ジャズ、ミュージカル評論家、画家、グラフィック・デザイナー。
東京藝大卒後、映画配給会社に入社、30年間で1000枚以上の映画ポスターを描いた。『野口久光シネマ・グラフィックス』(開発社)に主要作品を収録。著書に『思い出の名画』(文藝春秋)他。1994年病没。

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