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このディスク2019(海外編)No. 261

#04『Paul Bley Trio / When Will The Blues Leave』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

ECM2642

Paul Bley (piano)
Gary Peacock (double bass except 3, 8)
Paul Motian (drums except 3, 8)

1. Mazatlan (Paul Bley)
2. Flame (Paul Bley)
3. Told You So (solo piano: Paul Bley))
4. Moor (Gary Peacock)
5. Longer (Paul Bley)
6. Dialogue Amour (Gary peacock, Paul Bley)
7. When Will The Blues Leave (Ornette Coleman)
8. I Loves You, Porgy (solo piano: Du Bose Heyward, George And Ira Gershwin)

Concert recording by RSI, March 1999
Aula Magna STS. Lugano
RSI concert and recording producer : Paolo Keller
Engineer : Werner Walter
Album produced by Manfred Eicher


ECM創立50周年の今年(2019年)5月にリリースされた傑作。録音は1999年3月。このトリオの新作『Not Two, Not One』(ECM1670) のリリースが1999年2月だから、この新作のリリースをきっかけに組まれたツアーでの録音だろう。スイスのルガーノでのコンサート。興味深いのは、新作に収録された曲を1曲も演奏していないこと(収録されていないこと)。むしろ、ポールの古いレパートリーが多い。1曲目の〈Mazatlan(マサトラン=メキシコの都市名)〉の初出は1965年録音の『Touching』(Debut/Fontana) で、タイトル曲の〈When Will the Blues Leave〉の初演は1963年の『Footlose』(Savoy) だ。この曲はブレイのお気に入りの曲で、『Paul Bley with Gary Peacock』(ECM1003) でも 再演している。ちなみにゲイリーのスタンダード〈Moor〉も ECM1003の再演である。ECM1003は 8曲中5曲がポール・モチアンを含むトリオの演奏(残り3曲のドラマーはビリー・エルガート)で、〈Moor〉も〈When Will The Blues Leave〉もモチアンとのトリオで演奏しているので、じつに35年ぶりの再演ということになる。ちなみに、ゲイリーに確認したところ、ブレイは演奏の前に曲目の打ち合わせなどは一切しないとのことなので、ステージに上がってから思い付くままに弾き継いでいくのだろう。あるいは、ECM1003の録音当時を思い出して取り上げたのかもしれない。演奏からはブレイのいつになく心の浮き立つさまが聴き取られ、よほど環境や観客の質が良かったのだろうと想像される。あるいは久しぶりの旧友との再会に心が和んだのだろうか。3者が高い次元で自由に会話を楽しみながら聴衆を置き去りにしない。聴衆と即興の醍醐味を共有するベテランならではの巧みさが発揮された秀作である。
なお、この演奏の数ヶ月後ポール・ブレイは単独で日本を訪れ、ソロや愛弟子・藤井郷子とのデュオ・コンサート、富樫雅彦とのデュオ・レコーディングを楽しんだのだった。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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