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R.I.P. 沖至No. 270

「夏樹、100歳までラッパ吹こうな」 Rappa 田村夏樹

text by Natsuki Tamura 田村夏樹

数年前パリでのコンサートに来てくれて、終演後会館のロビーで談笑した時に沖さんが言った言葉だ。その時はそれはちょっと無理でしょうと思いつつも「すごい!いいですね」と返事した。今思えばあれは沖さんの、ずっとラッパ吹きたい!ずっと音楽やってたい!という強い思いが言わせたんだなあと思う。本当にラッパが、音楽が、好きだったんだと思う。

沖さんのバンドのメンバーとしてツアーにも参加したが、毎晩隣で演奏しながら同じラッパ吹きとして羨ましかったのがその音色だった。ふくよかで温かみがあり、ずっと聴いていたくなる音。100歳まで吹いても僕には出せないであろう音。

しかし本人にしてみればまだまだ納得できないようで、70歳を過ぎても、「夏樹は今マウスピース何使ってるの?」「僕はちょっと前に3Cに変えたんだよ。結構いい感じ」と、すぐに楽器やマウスピースの話になった。

一緒にツアーをしていて、人に全くプレッシャーを与えず、尚かつ強烈な自分の世界をバンドに行き渡らせることが出来る人だなと思った。バンドのメンバーも個性的な百戦錬磨のミュージシャンばかりだったが、どう転んでも沖至ワールドになってしまう。沖さんがそこに立っているだけでそういう世界が出来上がってしまうというのは、表現者として実に素晴らしく、稀有な存在だと思う。

向こうの世界でも納得のいくマウスピース探してるのだろうか?


田村夏樹(たむらなつき)
トランペッター、コンポーザー、アレンジャー

滋賀県生まれ。高校卒業後上京。スマイリー小原とスカイライナーズ、今城嘉信とザ・コンソレーション、宮間利之とニューハード・オーケストラ等で演奏。その後フリーのミュージシャンとしてアイドル歌手のツアーバンド、テレビ、スタジオ等で活動。1986年、渡米。ボストンのバークリー音学院に入学。1987年、帰国。自己のバンドで活動。1993年、再び渡米。ボストンのニューイングランド音学院に入学。NYに移り活動。1997年帰国。板橋文夫、金井英人、沖至等のバンドで演奏。日本、欧米を中心に自己のバンド「Gato Libre」や薩摩琵琶の与之乃との「motsure」、また藤井郷子のバンド等で活動。海外のフェスティバルにも出演多数。CDリリースも多数。

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