『未来の音楽』 happener 菊池マリ
text by Mari Kikuchi 菊池マリ
子供の頃に何度も何度も何度もみる夢に
まずは現れた
わたしは森の中で迷子になった
何処からか音が聞こえる
わたしはその音が鳴る方へ歩いて近づいて行く
その音は、白いマカロンに一本脚がついたような
建物の中から聞こえていた
わたしはその建物の前のまだ小さな木の植え込みに隠れて
その音の集積に酔った
その集積をわたしは
未来の音楽だと感じた
前触れもない夢の中でその未来の音楽を聴いて
目覚める朝は、とてもcoolな気分であったのだ
大人になるにつれ、その夢を見る事がなくなった
そう、自分が欲しいものは自分で探さなくてはいけないの。
アーティストのお側に置いてもらわないと
健やかに生きていく事が出来ない事を自覚したわたしは
18歳で家を出た
アーティスト達の周りを飛び回り、
わたしは未来の音楽を飛ばす沖至と出逢った
それは2007年9月の出来事だった
新宿のバー『ライラ』で、5月にあの世へ引っ越していったS画伯が
「コルトレーンを聴くとお袋を思い出すなあ」
S画伯の仕掛けた悪戯にハマり、
『ライラ』でコルトレーンを聴いてS画伯を思い出していた
「わたし、ジャズを聴いてみたい」
副島カポネ氏がわたしをそばに置いてくれていた
9/21、日本ツアーで帰国中の沖至を
副島カポネ氏が紹介してくださり
3人で高円寺で会った
終電を逃したわたし達は、神社で缶コーヒーを飲んだ
沖至が、わたしの隣に腰掛けざまに天を仰ぎ、
「わー、きれいやなあ~」
わたしも天を仰ぐと、神社の木々から月明かりと星明かりが木洩れていた
この人の音楽を聴いてみたい。
ヨシダ・ヨシエ氏のセキュレタリーをしていたわたしは、
「ジャズを聴きに行ってきます」
「だれだ」 「日本人よ、ヨシダ先生が一番好きな人はだれですか」
「沖至だな」
「あら、その人よ」
「調子いいなあ、と言いたいところだが、、、俺も連れてけ」
パリに飛び立つ船を見送って以来、33年ぶりの再会となった
すぐのライブは、池袋のペーパームーンにての
林栄一氏とのDUOで、
わたしはやっと、みつけたのだ
子供の頃に夢で何度も聴いた未来の音楽
ずっと探し求めた未来の音楽
蝶々を飛ばす沖至をみつけた
わたしの13年間、沖至のお側に置いてもらう事は、
背もたれのない椅子に腰掛け続けるようであったが、
年齢も暮らす場所も経験値も違う
生き物の順番で今日のようにまた離れ離れになっても
ずっと探していたから
ずっと一緒にいたから
必ずまた逢いたい
背もたれのない椅子に腰掛け続けたのは、
それも美しく腰掛け続けたのはあなただったと気がつけた。
2020年9月4日、ペール ラ シェーズでの葬儀を終えて
よく晴れた空の下で仲間達と赤ワインをかかげて沖至のあの世への引越しを見守った
天を仰ぐと墓地を見守る多くの木々達が晴天の木洩れ日と風の梵で
わたしをまた未来の音楽の方へ、導いてくれていました。
そして、沖至に代わりまして恐縮いたしますが
改めましてお礼と感謝の気持ちをお伝えさせてくださいませ。
背もたれのない椅子に座り続ける事が困難な時、滑り落ちそうな時
いつも沖至を支えて応援し続けてくださる皆様へ,
ありがとうございます、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
(菊池マリ / 沖至の妻 ハプナー)
『2011年1月フランス トゥールで行なわれたアートフェスティバルでは演奏の他に沖至トランペットコレクションの展示会も開催』(スライド・ショー)
沖至 Itaru Oki Trumpet Collection (Part)
菊池マリ(happener)
絵画モデル、ハプナー。モデルの存在する空間を「裏・ 現 場 」から「 表・現 場 」に変えるた め 、美 術 館 、ギャラ リー、授業中にとどまらず、音楽クラブイベン ト、ライ ブ、出版記念パーティーなど、ジャンルを飛び越えた空 間に出現し表現場に変える「行為するモデル」として活 動している。
https://www.facebook.com/kikuchi.mari.1