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R.I.P. ゲイリー・ピーコックNo. 270

底の知れない音楽性、Gary Peacock bassist 佐藤潤一

Text by Junichi Sato 佐藤潤一
Photo by Roberto Masotti

彼の演奏を初めて聴いた時のことは今でも良く覚えている。
高校生の頃、まだジャズを聴き始めて日も浅かった私は Oscar Peterson Trio での Ray Brown のプレイが大好きで毎日のようにアルバムを聴き漁っていた。

そんな時にレコード店でふと手に取った『Keith Jarrett / Still Live』(ECM1360/61)。1986年7月ミュンヘンのコンサートでの Gary Peacock の演奏を聴き、それまで聴いてきたどんなベーシストとも違う、アイデア、フレージング、独創性、全てが新鮮でそれから彼に夢中になるのに時間は掛からなかった。

とりわけ Keith Jarrett Standards Trio での演奏が素晴らしいのは言うまでもないが、1977年に録音された彼のリーダー作『December Poems』(ECM1119)では彼の音楽性の高さが一際輝いている。本作はソロベースや多重録音などが中心となっており Jan Garbarek とのデュオ演奏なども収録されている。緻密に計算された完成度の高い音楽、スリリングなインプロヴィゼーション、作曲能力の高さなどを十分に味わえる一枚となっている。

また、Ralph Towner とのデュオ演奏で、1995年にオスロで録音された『Ralph Towner & Gary Peacock / A Closer View』(ECM1602)も私のお気に入りの一枚として挙げておきたい。他のリーダー作と比べるととてもストロングな印象を受けた。同じベースラインを曲を通して黙々と演奏するなどとてもベーシストらしい作品に感じられる。こういった所でも彼の音楽の幅の広さがわかる。

彼の演奏を聴いているとベースを弾いているということを忘れてしまう。ベースを弾いている、ということ以上に彼の内にあるものが強く伝わってくる。もちろんそれは彼の底の知れない音楽性、確かな技術があってのことだが聴いていてこのような気持ちになる演奏家は決して多くない。

こんな事を言うのはおこがましいのだが間違いなく僕を形成したベーシストの1人である。

一つだけ心残りがあるとしたら彼の演奏を生で聴く事が出来なかったこと。
これからも彼が遺した作品に触れ続け、彼の様な素晴らしい演奏家に少しでも近づいて行きたい。

素晴らしい音楽をありがとう。ご冥福をお祈りいたします。


佐藤潤一 Junichi Sato acoustic & electric bass
1991年生まれ、東京出身。高校生でジャズに出会いベースを始める。国立音楽大学 ジャズ専修卒業。ベースを井上陽介、金子 健 両氏に師事。2015〜2017年、Newtide Jazz Orchestra に所属。2016年、2017年に行われた Jazz Festival at Conservatory (JFC)にて選抜ビッグバンド JFC All Star BigBand に2年連続で選出され「東京JAZZ」に出演。
アコースティックベース、エレクトリックベースを手に東京都内を中心に活動中。2020年6月には、ブルーノート東京の COVID-19 以降の会場観覧再開となった小曽根 真 公演に「Rising Star」として招かれ、小曽根 真とデュオで共演し注目を集めた。2020年8月にリリースされた『武本和大 / I Pray』に参加。

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