#06 『片山広明4SAX / 刻 HASHed Music』
text by Keita Konda 根田恵多
MEIKAI RECORD KAT-001
片山広明 – Tenor Saxophone
鬼頭哲 – Baritone Saxophone
松原慎之介 – Alto Saxophone
立花秀輝 – Alto Saxophone
Guest 四管獣
RIO – Baritone Saxophone
纐纈雅代 – Alto Saxophone
佐藤敬幸 – Alto Saxophone
上運天淳市 – Tenor Saxophone
01. Four SAX
02. All of Me
03. MC
04. Hallelujah
05. MC
06. Go-Kart Twist
07. Lawns
08. MC
09. Before the Liquor Store Closes
Encore with 四管獣
10. Better Git In Your Soul
11. Ending
Recorded at SOUND & BAR HOWL(TOKYO ONE WHALES)
Date of Recorded June 26, 2018
故・片山広明が最後に結成したバンドのライブ盤である。2018年6月26日、SOUND & BAR HOWLにて行われた片山広明4SAX約46分のステージをMCも含めて丸ごとパッケージングし、さらに対バン相手である四管獣とのアンコールセッションも収録している。
フリーな演奏で始まり、立花のアレンジによるジャズ・スタンダード「All of Me」に雪崩れ込む(トラック3のMCで松原が「All of Me“風”の曲です」と冗談めかして言っている)。続いて、片山の愛奏曲であった「Hallelujah」と「Go-Kart Twist」(前者は『Quatre』、後者は林栄一との『de-ga-show!』などに収録)が演奏される。片山が幾度となく演奏してきた両曲は、片山の音楽を知る者には「お馴染みのナンバー」だが、次に演奏されるカーラ・ブレイの「Lawns」は意外な選曲に感じられる。豪放磊落なイメージの強い片山が、少ない音を美しく積み上げていくこの曲をゆったりと吹き上げている。アンコール前の最終曲では、立花作曲の「酒屋が閉まる前に」がゴキゲンに歌われ、多幸感あふれる雰囲気の中でいったん幕を閉じる。そしてアンコールは、四管獣を加えたサックス8人による迫力のセッション。ミンガスの「Better Git In Your Soul(を軸に展開する演奏)」で大団円を迎える。
2018年6月から約2年半の時を経てリリースされた本作は、演奏内容の素晴らしさもさることながら、MCや演奏の合間の肉声も含めて「ライブ」をそっくりそのままCDに収めることに成功している点に大きな価値がある。時として笑いがこぼれるミュージシャン同士のやり取りも、ちょっとグダグダする場面があったりするところも、観客の反応も、兎にも角にも「生々しい」のだ。ジャズの「生演奏」の面白さがこれでもかと詰まっているのだ。
こうした「生々しさ」(あるいは「身体性」と言い換えることもできるかもしれない)は、ジャズという音楽の持つ大きな魅力であると思う。2020年は、コロナ禍によって有観客でのライブの機会が激減し、代わりにライブ映像の配信が激増したことで、改めて「ライブ」というものの持つ意味を考えさせられた1年であった。しかし、考えてみれば、ジャズの名盤の多くは「ライブ盤」である。ジャズファンは「録音されたライブを聴く」という営みを長年当たり前のように行ってきたのである。コロナ禍がいつまで続くか分からないし、私たちの「ライブ」の楽しみ方は形を変えていくかもしれない。それでも、ジャズという音楽の灯が消えることはない。本作は、そんな大それたことを思わず書きたくなってしまうほどの傑作なのだ。
*本作はライブ会場での直接販売か特設ウェブサイトのみで販売されている(300枚限定)。
*会場となったHOWLのウェブサイトに、本作に収録されたライブの詳細なレポートが掲載されている。