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このディスク2020(海外編)No. 273

#09 『Marcin Wasilewski Trio, Joe Lovano / Arctic Riff』
『マルチン・ヴァシレフスキ・トリオ、ジョー・ロヴァーノ/アークティック・リフ』

text by Takashi Tannaka 淡中隆史

マルチン・ヴァシレフスキ・トリオとジョー・ロヴァーノの初顔合わせのレコーディング。どう考えても違うタイプ同士だけに不安にすらなった。でも、この「初顔合わせ」にはなぜか大きな既視感があった。でも、このマッチングを「底のあたりでは深くつながっている」といくら調べたところで繋がりは見えてこないはずである。

ECMでのヴァシレフスキ・トリオは三連作が、ほぼ三年おきにつくられている。これらは土地の違いが音楽を変える好例だ。アイヒャーが短期間にこれほどまでに実験精神を込めて渾身のプロデュースを繰り返した例はあまりみられない。

ジョー・ロヴァーノのECM作品を聴くとそのたびに「こんなロヴァーノを聴くのは初めてだ」と思う。ヴァシレフスキ以上にECM以前、以後で音楽自体がはっきりと変化しているからだ。

全11曲、カーラ・ブレイの“VASHKAR”のふたつのバージョンとロヴァーノの“ON THE OTHER SIDE”を除く8曲はヴァシレフスキの側に委ねられている。NYジャズの大先輩に挑むフレッシュな「気負い」がいくばくか感じられるのもかえって好ましい。トリオにはめずらしくソリッドなジャズそのものの匂いが充満している。

アイヒャーはラヴァーノとヴァシレフスキ・トリオから音楽のエッセンスをあっというまに掬いとってしまう。どう聴いてもそこにはなんのサジェッションも編集も介在した形跡はなさそうだから。そうして5分を少し超えるほどの11のトラックに封じ込め、キュレートしてみせているのは神業に近い。「演説が 好きな人には 俳句よませる プロデュース」のようだ。

本編は以下を参照願います;
https://jazztokyo.org/reviews/cd-dvd-review/post-54062/

淡中 隆史

淡中隆史Tannaka Takashi 慶応義塾大学 法学部政治学科卒業。1975年キングレコード株式会社〜(株)ポリスターを経てスペースシャワーミュージック〜2017まで主に邦楽、洋楽の制作を担当、1000枚あまりのリリースにかかわる。2000年以降はジャズ〜ワールドミュージックを中心に菊地雅章、アストル・ピアソラ、ヨーロッパのピアノジャズ・シリーズ、川嶋哲郎、蓮沼フィル、スガダイロー×夢枕獏などを制作。

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