JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 28,726 回

このディスク2020(海外編)No. 273

#08 『Carla Bley, Andy Sheppard, Steve Swallow / Life Goes On』

Text and photo by Akira Saito 齊藤聡

ECM 2669

Carla Bley (piano)
Andy Sheppard (tenor saxophone, soprano saxophone)
Steve Swallow (bass)

LIFE GOES ON
1. Life Goes On
2. On
3. And On
4. And Then One Day
BEAUTIFUL TELEPHONES
5. I
6. II
7. III
COPYCAT
8. After You
9. Follow The Leader
10. Copycat

Recorded May 2019
Auditorio Stelio Molo RSI Lugano
An ECM Production
In collaboration with RSI Rete Due, Lugano
Thanks To Paolo Keller
℗ © 2020 ECM Records GmbH, München

ジャケットを連作のような形にして出しているトリオでの演奏の3枚目にあたる。『Trios』(2012年)、『Andando el Tiempo』(2015年)よりもさらにゆっくりと落ち着いて音楽を創っていて、そのことがとても印象的だ。かれらは時間をコントロールし、止まっては再スタートする。淡々と演奏していながらも底知れないユーモアと機微を含み持つ音楽である。聴くたびに新しい何かを感じ取ることができそうだ。

4曲から成る<Life Goes On>での静かなピアノ、エロチックに研ぎ澄まされた独特なベース、そこにふくよかで大気に溶けるようなサックスがときおり入ってくる。カーラ・ブレイのピアノは静かで音数は多くはないが、和音を提示するたびに、深い哀しみと悦楽のカーラ色が強く展開される。魔術のように大きなうねりを創り出してもいる。

<Beautiful Telephones>はドナルド・トランプに捧げた組曲。トランプがホワイトハウスの執務室にはじめて入って、「いままでこんな美しい電話機を見たことがない」と口走ったことを題材にしたものだ。もちろん直接的な使い方ではない。カーラの美しいピアニズムが人間の愚かさや馬鹿馬鹿しさをシニカルに覆っているように聴こえる。

最後の<Copy Cat>において、やはりゆっくりと、しかしそれまでよりも、スワロウのベースがサウンドを前へ前へと押し動かしはじめて、3人で希望の世界を創ってみせている。

本盤が録音されたときと同じ2019年5月に、ドイツのケルンでライヴを観ることができた。3人とも自然体そのものだ。余計な力など何も感じられなかった。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

コメントを残す

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.