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R.I.P. デヴィッド・ダーリングNo. 274

デヴィッド・ダーリングさま

text by Hiroaki Ichinose 市之瀬浩盟

courtesy of ECM

あの日、貴方の突然の訃報はFacebookを毎晩の日課のようにつらつらと見ていたとき挙がってきたECM Records の投稿で知りました。

はじめは、まず私の目に飛び込んできた “ECM Records のアイコン 〜 タキシードを纏い愛器を奏でる貴方のお写真” を拝見して「あっ、新譜が出るのかな」と直感して投稿文に目をむけました。

David Darling (1941-2021) ……

頭の中がすぅーっと真っ白になっていき、この身がみるみる硬直していきその後は何も考えられなくなりました。ただ、この手が自然と “言葉にならない…” とだけ書いてシェアしていました。

* * *

CYCLES (ECM1219)…。30数年前、当時大学生だった私が貪り求めていたECMの数多の名盤中の名盤となった1枚。初めて貴方を知った作品です。正直言って “ジャケ買い” 、”共演者買い” でした。「美しい音は確固としてその美しさを誇示する」と信じていた当時の若輩者の私はその「今にも壊れそうな、崩れ落ちそうな貴方をはじめとした共演者の皆さまのその美しい音」にとことんやられました。瓦解しそうな音を皆で支え、時に手放し佇み、見守り、そして再び手を携わる…そんな音の連続が限り無く透明で美しい玲瓏な調になることを貴方が私に初めて教えてくださいました。
直ぐに貴方の無伴奏ソロアルバム JOURNAL OCTOBER (ECM1161)、R.タウナーの OLD AND NEW FRIENDS (ECM1153) を見つけ、夜な夜な聴き入っておりました。

CELLO (ECM1464)、DARK WOOD (ECM1519) と深淵な森を彷徨いながら一瞬の光を追い求めるような2枚の無伴奏ソロも”時を止めるような”美しい作品でした。ジャケットもCelloはJ.L.ゴダールの映画のシーンから、またDark WoodのジャケットはECM初のジャケット写真集「Sleeves of Desire」の巻頭の序文の後をめくった1ページ目に見開きでいきなり飛び込んできましたね。

前世からのお約束のように導かれたT.リピダルとのデュオ EOS (ECM1263) でのテリエとの出逢いはやがてK.ビヨルンスタ – J.クリステンセンの4人で THE SEA (ECM1545) というとてつもなく美しい作品を私に届けてくださいました。冷たく、仄暗い曇天の北欧の冬の海。その景色が見せる空気の冷たさを、海や砂の色を、明度を、波の強弱を、一瞬雲間から差し込んだ光が波に反射して光るその煌めきを…皆全てを4人の音で紡ぎあげてくださいました。 その音は自作 THE SEA I I (ECM1633) へと受け継がれ、同時にケティルとのデュオ THE RIVER (ECM1593)、 EPIGRAPHS (ECM1684) へと固い絆で結ばれていきましたね。

もう貴方の新しい音が聴くことができなくなった今…以前に増して貴方の音を求めてしまいます。今までがそうであったように、いやそれ以上に貴方が奏でる音が私の残された人生の時間の中でずっと鳴り続けていくことでしょう。

ありがとうございました。いや、これからもありがとうの感謝をもって貴方の音に向き合ってまいります。

どうか安らかにお眠りください。

市之瀬浩盟

長野県松本市生まれ、育ち。市之瀬ミシン商会三代目。松本市老舗ジャズ喫茶「エオンタ」OB。大人のヨーロッパ・ジャズを好む。ECMと福助にこだわるコレクションを続けている。1999年、ポール・ブレイによる松本市でのソロ・コンサートの際、ブレイを愛車BMWで会場からホテルまで送り届けた思い出がある。

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