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R.I.P. ウォルター・ラングNo. 290

赤い車で旅をした by 栗林すみれ

Text by Sumire Kuribayashi 栗林すみれ

ウォルターに会ったのは2018年秋。オーストラリアのワンガラッタジャズフェスティバルでした。
私のリーダーのセクステットをウォルターが聴いていてくれて、その後すぐパースのジャズフェスティバルでも再会。ヨーロッパに来る時は連絡して、と言ってくれました。
2019年春にイタリアツアーが入ったので、ウォルターに行くよ!と連絡したところ、すぐにドイツでブッキングをしてくれました。あなたのために老舗のウンタファルトの素晴らしいステージを用意したよ!と。

私は、ウォルターが声をかけてくれたのだからと、すっかりウォルターと二台ピアノをやるつもりでいて、おそらく何をやろうかとウォルターの動画を検索したりしていたのでしょう、そこでウォルターが参加していた進也さんのトリオを見つけ、このトリオすごく素敵だね!とメールしていました。(忘れていたけど。)
それでウォルターから進也とやろう!と。

今回この文を書くにあたりウォルターとのメッセージを読み返したら、
誰と来るの?とか、イタリアツアーのメンバーは誰?とか、進也さんとやると決めた後もベース入れる?とか聞いてくれていたのですが、私はスルーしている始末。

ひ、ひどい、、、。

ウォルターは英語力の無いわたしのメッセージからきっと色々推測して考えてくれたのでしょう…
そんなわけで、本来ならば私のリーダーとしてイタリアのバンドメンバーとごく普通にピアノトリオなどしていたかもしれないところでしたが、
あの時のわたしの英語の出来なさによって、ウォルターとの二台ピアノ(正確にはピアノとローズ)が実現し、そしてドイツで進也さんと出会うことになったのでした。

そんなたまたまの流れではありましたが、音楽的にもとても良いトリオだったのではないかと思います。
ミュンヘンでも、そのあとの夢のような五ツ星ホテル!での演奏も、ウォルターの素敵な赤い車で3人一緒に旅した時間も本当に楽しく、一生思い出に残るひとときでした。
もしかしたら進也さんとも、この時にドイツで会っていなかったら、今まだこんなに一緒に活動するような仲にはなっていなかったかもしれません。
私にはウォルターがくれたご縁のように思えます。

その後日本でもまたそのトリオでライブをすることが出来ました。
また日本でもドイツでもやりたいね、と言っているうちにコロナになってしまいました。
やっと、もうすぐ、そろそろ行けるかな、なんて希望を持ちはじめた矢先の、
あまりに悲しい知らせに
涙が止まりませんでした。


©Hideo Kanno

本当に優しく紳士でユーモアがあり、
美しい音を奏でていたウォルター。

ウォルターの演奏はいわゆる技巧的”上手さ”や凄みで人を圧倒するようなことは無いですが
一緒に音を出す時、私はいつも不思議と襟を正されるような気持ちになるのでした。
それはウォルターの人間性が佇まいから滲み出ているからなのか、
自分のことも周りのことも、静かに受け入れようとする姿勢なのか、、、
ああ、こういう人もいるんだな。と
なかなか出会うことはできない
素敵な人だな、と思いました。


©Hideo Kanno

一緒に音を出した時の何も考えなくとも
溶け合う感覚は、とても気持ちよかった。

また、自分の持っていること、出来ることに満足し、受け入れることの大切さを学ばせてもらいました。

こうやって思い出すたびに楽しかったなぁ、素敵な人だったなぁと、
会えなくても尚、幸せな気もちにしてもらっています。
もう会えないことが本当に寂しい。

うまく追悼文らしいものも書けずに恐縮ですが、
ウォルターへの心からの愛と感謝ともに
追悼の文とさせていただきます。


栗林すみれ Sumire Kuribayashi – Pianist, Composer
2014年行方均氏のプロデュースでサムシンクールレーベルからデビュー。1stアルバムがディスクグランプリニュースター賞受賞。 2018年総勢11名参加のアンサンブル作品をリリース。ジャズライフ誌で表紙にとりあげられる。海外での活動もめざましく、ロンドンのホクストンホールでのリーダー公演、オーストラリアのWangaratta jazz festival、ドイツでは老舗クラブ「ウンタファルト」のマンスリー・ピックアップ・アーティストとして出演、イタリアではソロコンサートの他、Giuseppe Bassi Groupでのツアー、録音に参加。ヨーロッパのインプロコミュニティCIprojectに参加。公式ウェブサイト

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