#01 灰野敬二+今井和雄
text by 剛田武 Takeshi Goda
photos by 松山晋也 Shinya Matsuyama except * by 船木和倖 Kazuyuki Funaki
11月3日(木祝) 東京・渋谷公園通りクラシックス
「事 ある 事」 ギターとギター
灰野敬二 (g)
今井和雄 (g)
制限から生まれる新たなる創造性。
灰野敬二が2020年秋にスタートしたライヴ・シリーズが『事 ある 事』。アコースティック楽器の音響の良さで定評のある渋谷公園通りクラシックスで、生楽器やヴォイスとのデュオまたはトリオでの即興ライヴである。基本的に灰野はエフェクター類無しのエレキギターとヴォーカルで、共演相手がヴォイスの時はヴォイスのみ。ミニマム・スタイルのプレイを聴かせる。
2020年
10月26日(月) 吉田隆一(bs)、SOON KIM(as)
11月15日(日) 外山明(ds)、森重靖宗(cello)
2021年
3月2日(火) 内橋和久(g) ~ギター と ギター
4月4日(日) スガダイロー(p)
5月9日(日) 鬼怒無月(g)~ギター と ギター
5月30日(日) 徳久ウィリアム(vo)~声 と 声
2022年
4月9日(土) 山際英樹(g)~フライング
5月29日(日) 森重靖宗(vo)、赤い日ル女(vo)~声 声 声
9月18日(日) 林栄一(sax)
11月3日(木祝) 今井和雄(g)~ギター と ギター
もちろん灰野は以前から、不失者やTHE HARDY ROCKSなどロックバンドに代表される容赦ない大音量の演奏と並行して、アコースティック系楽器による繊細な演奏をしてきたし、生楽器との即興コラボレーションも多数ある。しかし2020年初頭に勃発した新型コロナ感染症による行動制限で思うように演奏ができない時期に始まったこの企画には、灰野が演奏行為に求める新たな美学が反映されているように思える。
この企画では、演奏面で特定の制限(条件)を設けることが多い。特に「ギター と ギター」とサブタイトルされたギター・デュオの場合は「ノー・エフェクター/シールド1本のみ(アンプ直結)」という制限が求められる。演奏者の身体(指)とギター(の弦)が触れ合う音をアンプで増幅するだけのシンプルかつダイレクトな音と音のコラボレーション。多数のエフェクターや特殊奏法を得意とするギタリストも少なくないが、彼らにとってこの制限下でプレイすることは、ギターを弾き始めた頃の初心に戻る気持ちになるのだろうか、原点回帰したような気迫たっぷりのプレイが展開されることに新鮮な感動を覚える。制限を設けることで生まれる新たな表現の形が見えてくる。つまり「何でもあり」よりも「何かがない」ほうが肥沃な創造性を生むという逆説的な発想である。
その最たる例が本公演。灰野敬二と今井和雄の初のギター・デュオは、2017年6月に六本木SuperDeluxeで開催されたTokyo Flashback P.S.F. 発売記念 ~Psychedelic Speed Freaks~ 生悦住英夫氏追悼ライブだった。時間が短かったこともあり、瞬発的な爆音ギター・バトルに終始した感がある(もちろんそれはそれで刺激的だったが)。それから5年経って実現した2回目の共演にあたって、灰野から「ノーエフェクター/シールド1本」に加え「ソリッド・ギターの指弾き」という制限が追加された。今井はそれに応じて人前で弾くことは滅多にないという秘蔵のギブソン・レスポールを持参。フルアコが定番の今井が、ジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)で有名なロック・ギターを弾く姿はかなりレアだろう。この制限のお陰で「VS」になってしまった前回とは一変して、お互いを慈しみ合うように繊細な演奏が繰り広げられた。第2部では相手の懐に敢えて飛び込む挑発的なプレイも飛び出した。丁々発止の技の応酬に興じる両者の生き生きとした演奏と嬉しそうな表情が、近くのようで遠いロックとジャズのシーンで別々に活動してきた二人のベテランの間に、単なる共演相手を超えた共感(友情というと大袈裟か)が生まれたことを物語っていた。
『事 ある 事』シリーズ以外にも、べテランから若手まで灰野が気になるアーティストを交えて「制限あり」のコラボレーションを精力的に行っている。70歳を過ぎてさらに転がり続ける灰野にとって、制限下の新たな交わりから生まれる創造性が活動の糧になるはずだ。「今日の制限は何だろう」と予想しながら現場へ向かうのが、2023年のライヴ通いの楽しみになるだろう。(2022年12月15日記)