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R.I.P. 松風鉱一No. 301

追悼 松風鉱一 by 梅津和時(サックス、クラリネット)

text by Kazutoki Umezu  梅津和時
photos © PitInn, Shinjuku March 19, 2023

松風のことを考えている。3月に亡くなった松風鉱一のことだ。
彼が亡くなる10日前に、私は彼と「Sak Workshop」というバンドでピットインで演奏している。
松風と沢井原兒と私との3人のサックスをフロントに置いているバンドで80年代前半に活動していたのだが、最近復活したバンドだ。曲は主に松風のものが多く、私や沢井の曲も間に少し挟む。
まず、今でも信じられないし、驚くしかないのだが、肺に癌を持っていたのに松風は昔より音量は小さくなったとはいえ、平気でアルト、テナーの二つのサックスとフルートを吹いていたことだ。我々も彼が癌に侵されていることは本人の口から聞いていてよく知っていた。しかしその演奏に癌は何も影響を及ぼしていないように我々には聴こえたし、申し訳ないことに我々も彼の体を気遣うことなど全く考えなかった。それほど彼は普段と寸分変わらない演奏を最後の最後まで貫き通したのだ。
奥様から後から聞いたところ、実は歩くのも食事をするのも大変なくらい弱っていたらしく、駅から家への帰りは必ず奥様が迎えに行かれていたそうだ。本人は「演奏をしている時だけが痛みを感じない」と言っていたらしく、何があっても演奏を休むつもりなどなく、この先も演奏やレコーディング、さらにツアーの予定まで入れていたといういから驚く。
松風と私は国立音楽大学時代の同期である。クラシック、現代音楽の影響からの即興演奏を模索していた私に「ジャズは即興だよ」とジャズへの転向を最初に促してくれたのは彼だったし、その頃バスクラリネットを練習していた私にエリック・ドルフィーの存在を教えてくれたのも松風だったと思う。そしてさりげなく「梅津にはこっちの方が向いてるかもな。」と貸してくれたのは『ソフト・マシン』のレコードだったので、当時「津田・松風グループ」でのオーソドックスでもありファンキーでもあった松風がこんなレコードまで聴いているのだ!と驚いたこともよく覚えている。ある意味、彼は私にとっての影の教師だったのかもしれない。ピットインのティールームに彼にグループを見に行った時「1曲吹いていけよ!」とサックスを買ったばかりの私をステージに乗せてくれたことが、ティールームに出演するきっかけだったような気もするし、サンボーンのレコードを初めて聴いたのも彼のアパートの部屋だった。そして私が渡米するときに「生活向上委員会」の名前を預かってくれたのも松風だったし、帰国してろくに仕事のない私に「アグネス・チャンのバンドのオーディションがあるから行ってみれば?」とさりげなく仕事を回してくれたのも彼だった。そして私が「RCサクセション」と共演するようになった時も「梅津に似合うロックバンドに出会えて良かったじゃん!」といち早く喜んでくれたのも彼だった。松風はロック界でもすでに「ゴダイゴ」のバックで活躍していた。松風、本当にありがとう!いっぱい世話になったなあ。
70年代後半か80年代に入ってSak Workshopで一緒にやってみると、隣でサックスを吹いている松風のフレーズは、大学時代とは打って変わって、かなり独特なものになっていた。音が激しく上下に飛び回るし、通常のコードやモードの流れからは明らかに異なるフレーズがサックスやフルートから湧き上がる。ドルフィーの影響はあるとは思うのだが、それとも確実に違う松風鉱一だけのものと断言して良い。彼が創りあげた誰にも真似できない松風鉱一のスタイル。それは80年代から生涯最後の演奏まで一貫して演奏され続けた。できれば後に続く誰かが、正確に松風鉱一の研究をしてくれることを望む。そしてそれはきっと、決して派手ではなかった松風鉱一という偉大な音楽家の成果を明らかにしてくれることだろう。
私は残されたメンバーの一人として、未だやったことのない彼の曲をいろいろ取り上げてみたいという欲求に駆られている。そう、彼の曲も彼のアドリブに負けないくらい独特で美しいものが多いのだ。それは彼が我々に残してくれた大きな遺産であり、永遠に生き続けていく。それはまず我々が継承しなければならない。

Sak Workshop

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