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My Pick 2023このディスク2023(海外編)No. 309

#04 『Sunako /Csaba Palotaï』
『Sunako (砂子)/チャバ・パロタイ』

text: ring Okazaki 岡崎凛
レーベル:BMC Records  2023年9月リリース

Csaba Palotaï – guitar, sampler チャバ・パロタイ
Simon Drappier – baritone guitar シモン・ドラピエ
Steve Argüelles – drums, omnichord, voice スティーヴ・アルグエレス

01 Ave de Clichy 4:17
02 Aïr 5:27
03 Buckboard 5:22
04 Arsenal 3:34
05 Phosphore II 3:25
06 Henriette 3:55
07 Dalva 3:56
08 Messe de Nostre Dame 7:09
09 The Trail 6:41
10 Ricerca 5:14

Recorded by Viktor Szabó at BMC Studio, Budapest on 29-31 May, 2022

Compositions:
Csaba Palotaï (1, 2, 5, 9); Simon Drappier (4, 6); Steve Argüelles (3); Csaba Palotaï & Steve Argüelles (10); Csaba Palotaï, Simon Drappier & Steve Argüelles (7); Guillaume de Machaut, Csaba Palotaï, Simon Drappier & Steve Argüelles (8)
Lyrics: Steve Argüelles (7, 10)


ハンガリー出身の個性派ギタリスト、チャバ・パロタイが母国のBMCから7枚目をリリース。アルバムを『砂子(Sunako)』と名づけ、前作のテーマ「砂漠のブルース」をトリオ編成で引き継ぎ、米国テキサスのトリオ、クルアンビンのような音楽も盛り込む。3度目の共演となるスティーヴ・アルグエレス(ds)がヴォイスも担当。多国籍志向が強く、遊び心たっぷりの意欲作。

BMCの紹介文では、チャバ・パロタイの新トリオの音楽は、ファンク、トランスに傾倒し、米国テキサスの人気トリオ、クルアンビンの世界をジャズ言語に置き換えたようなものであると同時に、ジャズ・ギタリスト、チャバ・パロタイのこれまでの音楽的歩みを総括するものだとしている。
この紹介文によれば、Sunakoというタイトルは日本語の「砂+子」に由来しているとのこと。この「砂」という言葉に「砂漠のブルース」と呼ばれるサハラ砂漠に暮らすトゥアレグ族の音楽(代表的なグループがティナリウェン)への共感が込められているらしい。
チャバ・パロタイとスティーヴ・アルグエレス(ds&etc)の共演作はこれが3作目であり、「砂漠のブルース」という言葉は前作の紹介にも使われていた。

これまで数年パロタイを聴いてきた者としては、今回、彼がクルアンビン風の音楽を特に目指したとは思わない。どちらのグループも関心の向かう先が似ており、ギター、ベース(バリトンギター)、ドラムという編成もほぼ同じなので、類似性が強まったのではないかと思う。

BMCの公式紹介には記されていないが、このトリオ「Sunako(砂子)」の活動のきっかけになったのが、日本の無声映画「港の日本娘」の演奏付き上映会だったという。パロタイとアルグエレスは以前からデュオを組んでいたが、ここにサイモン・ドラピエが加わって、映画上映会のバックで演奏を行った。その後3人は、映画のヒロイン黒川砂子の名前をトリオ名にして活動することになった。

パロタイは、前作ではアコースティック音にこだわっていたが、今回はエレクトロニクスを多用し、刺激的なノイズ音、ヴォコーダーを使った音声などが加わって、遊び心満載の作品となった。
曲によってはティナリウェンやクルアンビンの楽曲を連想させるものもあるが、これが元々のチャバ・パロタイの無国籍音楽的なアプローチと一体化し、ますます面白いものになっている。

<海外のCD通販店での紹介文(抄訳)>
チャバ・パロタイ、スティーヴ・アルグエレス、サイモン・ドラピエは、日本の無声映画「港の日本娘」上映会を機にトリオを結成。3人は「Sunako」という名前でファースト・アルバムをリリースすることを決めた。ファンクとトランスの影響を受けたこのアルバムは、米国のバンド、クルアンビンの世界をジャズの言語に翻訳したような作品であり、同時にジャズ・ギタリスト、チャバ・パロタイのこれまで進んできた道を継承している。2本のギター(正確には、片方がバリトンギター)とドラムスで、ギター・ソロが重要な役割を果たす。パロタイの演奏は絶え間なく変化し、生々しいリリシズムが生まれ、これにスティーヴ・アルグエレスのミニマルなトライバル・ドラミングがぴったりと寄り添っている。

トリオのメンバーについて:
<ギタリスト、Csaba Palotaï チャバ・パロタイ>
略歴:
1996年よりパリ在住。
7歳からアコーディオン、12歳からギターを弾く。ブダペストのフェレンツ音楽院でギタリストGyula Babos(ジュラ・バボシュ)に学び、その後パリの国立音楽院でジャズと即興音楽を専攻。初期の頃はハンガリー出身の著名ギタリストGabor Gado(ガーボル・ガド)に強く影響をされていた。
ロック、フリージャズ、ブルース、東ヨーロッパ由来のフォークロアを基盤に、幅広くジャンルレスな音楽を網羅するギタリスト。
Csaba Palotaïの苗字(Palotaï)の最後の文字 ïは、フランス語、カタルーニャ語で使われるとのこと。
ディスコグラフィ:
ハンガリーのレーベル、BMCよりリリースされた彼のアルバムは、2023年現在7枚。
チャバ・パロタイのプロジェクトはいくつかあり、さまざまなジャンルを網羅する活動をしてきた。彼のソロ、リーダーアルバムには、この雑多で幅広い活動が反映されている。
2000年代の彼のプロジェクトで一番ジャズらしいのはグルーパ・パロタイ(Grupa Palotaï)であり、BMCレーベルより3枚のアルバムをリリースする。ここにはサックス奏者Rémi Sciuto(レミ・シュート)が参加。自らの音楽をガレージ・ジャズと呼ぶ2管コードレスクインテット。
『Minimyths』(2003)
『Stompy Trasy』 (2005)
『Singapore』 (2007) (タイトル通りにアジア色の強い作品)

2010年代のBMCからのチャバ・パロタイ名義でのリーダー作はこれまで4枚
2016年 ギターソロアルバム『The Deserter』
2019年 Csaba Palotaï, Rémi Sciuto, Steve Argüelles, Vincent Segal『Antiquity』
2021年 Csaba Palotaï & Steve Argüelles 『Cabane Perchée』
2023年 Csaba Palotaï , Simon Drappier, Steve Argüelles 『Sunako』(本作。BMCよりリリース7作目)

<ドラマー、Steve Argüelles スティーヴ・アルグエレス>
英国のドラマー。1963 年生まれ。サックス奏者ジュリアンの兄。鬼才と称せられるフランスのピアニスト、Benoît Delbecq(ブノワ・デルベック)とのつながりが深く、共演盤は10枚を超える。最近はドラムだけでなく、エレクトロニクスも担当している。
過去のリーダー作は弟のジュリアンの加わる『Circuit(1998)』など8枚。ギタリストのノエル・アクショテ(Noël Akchoté)など、フランス、スイスなどのフリー、アヴァンギャルド色の強いミュージシャンとの交流が多い。
(苗字はアルグレス、アーゲルズの表記もある。弟のジュリアンの苗字はアーゲルズとする表記が多いようだ)

<バリトンギター*、Simon Drappier サイモン・ドラピエ)
フランスの人気グループ(エレクトロニカ、実験的なロックを演奏)、キャバレー・コンテンポレインのベーシスト。Denis Colin(バスクラリネット奏者)の率いるQuiet Men Quartetではアルペジョーネという珍しい弦楽器を弾いている。
パリ国立高等音楽・舞踊学校 (Conservatoire National Supérieur de Musique et de Danse de Paris) 、略称CNSMD出身。

*バリトンギター(Baritone guitar)とは通常のギターより低い音域が出るギターであり、様々な種類がある。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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