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R.I.P. パレ・ダニエルソンNo. 315

Palle Danielsson (そしてJon Christensen) についての雑記 by みどりん

Text by Midorin みどりん

私事になってしまうが、大学生時代はジャズ研究(同好)会に属し、演奏に対して学業や単位取得以上に邁進していた時期。それはそれは多数のジャズアルバムを文字通り中古モノや輸入盤やと何処からか辺り構わず手に入れるか借りたりして貪るが如く聴きまくっていた時期でもあった。
近所に都立図書館があり、其処にも数は少なかったがラッキーにも存在したジャズコーナーからCDを借りてはカセットテープやミニディスク(MD)に落として、何度も聴きまくっていた。

そんなジャズ研時代に必ず通らなければいけない必須科目としてのキース・ジャレットという偉大なピアニストが存在した。ジャズファンであった父親もキースが大好きで聴いていたがその好みはスタンダードナンバーを演奏しているスタイルのみに限定されていた為、キースがオリジナル楽曲を弾くピアニストであるとは自分も当時認識が出来ていなかった。

とある日の都立図書館でキース・ジャレットのアルバムを発見する。白地にに赤い筆での山のようなモチーフが書いてあるだけの『Personal Mountains』(ECM1382)だ。これもキースなのかと当時の自分はドキドキして手に取り何枚かの他ジャンルのCDと共に借り、その深淵なサウンドに驚くと共にハッピーに笑顔でスウィングする様が垣間見えるビートの曲など一曲も無い事にも衝撃でもあった。


※『Personal Mountains』(ECM1382)と『Sleeper』(ECM2290/91)、1979年4月 東京でライヴ録音。

一曲目からとことんハードボイルドにエイトビートなのか解らぬが身体の揺れるドラムとベースの絡みに口をアングリと開ける他無かったのを覚えている。後にドラマー界では「イーブン・エイト・ビート」と称されるリズムフィギュアの代表的な一例だ。そのダイナモとも云うべき主こそがベーシスト、パレ・ダニエルソンとドラマー、ヨン・クリステンセン。サックス奏者ヤン・ガルバレクのソロ途中からキースはピアノを弾くのを止めまるでトランスするかの如くパーカッションを一心不乱に叩きまくり、ヨンのカオティックなドラミングの中でパレがビートに引っ掛ける様なベースラインを提示する。
そんなリズムの熱い狂乱の宴から曲のテーマに移ったと思いきや、スッと夢から覚めた様にスローな三拍子のシーンに移り変わりそのままパレのベースのメロディーを残して曲は終焉を迎えてそのまま二曲目<Prism>に移行する。自分は何という音のみのドラマを見ているのだろうか。その下地を作っていたのは矢張り明らかにパレとヨンの二人による雰囲気作りあってこそに他ならない。

グルーヴとはこの場の四人が其々で常に確固たる存在でありまた提示している「ノリ」であって決して特定の誰か(例えばヨンとパレの組み合わせ、またはどちらか一方)が出しているものではない。ましてやオフビートが常に特定の位置の四分音符に強力に出ているものでもなく、自由な地平の更に向こう側を目指すべく音の真っ白なキャンバスに其々で色を塗り合っているかの如くだ。


※キース・ジャレット”ヨーロピアン・カルテット”の『Belonging』(ECM1050)、『My Song』(ECM1115)、NYライヴ『Nude Ants』(ECM1171/72)

そういえばつい先日、ライヴの合間にレコードでかかっていたチャールス・ロイドのモントルーライヴを久々に聴いたところだった。ベーシストはパレその人とドラマーはサンシップ・テウスであったが、パレの「ビートに引っ掛ける様なベースライン」が矢張り細かい打音に満ちた音符の間を絶妙に縫い付ける。音の伸び方が特徴的なプレイヤーであるという認識が自分の頭の中の何処かにあったのだが、まさにそれを確信した瞬間だ。


※『Charles Lloyd Quartet / Montreux 82』 (Elektra Musician)

そしてパレというプレイヤーは語弊を恐れずに言うと、楽器を「弾かない」。
ベースを弾き過ぎない、のではなくその場の音楽に必要とされる音以外を全く弾かないのだと自分は考える。それはきっと彼が例えばベースという楽器奏者で無くても同じ事を為して音楽にただただ貢献する事を考えている証なのだと思う。

それはヨンというドラマーのプレイスタイルにも同じ事を言いたい。此処にはきっと同意してくれる方々も沢山いると思う。ある時はシンバルやドラムの周りを撫でる様にソロを取るがまたある時は烈火の如く全ての叩ける場所をクール且つ確実に叩いてその場を煽る。
彼等は空間を弾き、叩く。それはプレイする合間に音を出さない空間を作る行為とは全く別な意味であり、また音の伸びる余韻を感じるというだけでも無い感覚であり特性でもある。自分が先程アンサンブルの「雰囲気作り」と称したのは此処に意味を込めている。


L: Jon Christensen & Palle Danielsson, Bergamo Jazz, Bergamo 1977. ⒸRoberto Masotti
R: Keith Jarrett Quartet at Zurich 1978. ⒸRoberto Masotti

耽美的でもあり熱情的でもある音の間に存在する曖昧な感情を彼等はプレイによって示してくれた。それは自己鍛錬から引き出される肉体的なジャズという音楽にとって新たな感情の発見を導き出したのと同時に、ビートに囚われない表現の仕方をも発明した張本人でもある。ジャズに文学的要素を加えたリズムセクション、と言っては今まで書いた事に反してカテゴライズをしてしまうのかもしれないが、彼等の為してきた成果にはそれだけの爪痕があると同時に聴く事によって新たなインスパイアを常に呼び起こされるのは紛れも無い事実でもある。

二人の消失の影響は、計り知れないものだとあらためて思う次第です。

それと今活動されている次世代のジャズミュージシャンやクリエイターの皆さんは、自分達の生み出した音楽を振り返る時、いずれきっとパレとヨンのリズムセクションに感謝する日が来るでしょう。

その日をお楽しみに。


みどりん Midorin: Drummer
1978年、福島県いわき市生まれ。“デス・ジャズ”バンド、SOIL&”PIMP”SESSIONS、ピアノトリオJ.A.Mには2023年まで在籍。同バンドでの活動のほか、さまざまなアーティストのライヴ、レコーディングに参加。経歴としては、ノラ・ジョーンズのJAPANプロモーション、松浦俊夫 presents HEXへの参加の他、ハナレグミ、レキシ、椎名林檎、原田知世、福原みほ、Superfly、あいみょん、AI、KYOTO JAZZ MASSIVE、吉澤はじめ、五十嵐一生等といったアーティストたちと共演を果たしている。最新情報はInstagram。 (Photo by Eba Nomizu)

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『Personal Mountains』 (ECM1382)
Keith Jarrett: Piano, Percussion
Jan Garbarek: Tenor Saxophone, Soprano Saxophone
Palle Danielsson: Double-Bass
Jon Christensen: Drums

Personal Mountains
Prism
Oasis
Innocence
Late Night Willie
All composed by Keith Jarrett

Recorded live at Tokyo in April 1979
Engineer: Jan Erik Kongshauk
Produced by Manfred Eicher
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Keith Jarrett Quartet at NRK Studio in Osla, Norway in 1974
Keith Jarrett (p), Jan Garbarek (sax), Palle Danielsson (b), Jon Christensen (ds)

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