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Jazz and Far Beyond

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R.I.P. 林 聡No. 320

お会いできなかった 齊藤 聡

橋本孝之さんのプレイは「サックス演奏」というフィルターを通して観るべきものではなかった。モノトーンでスタイリッシュに決め、関西ふうにいえば「しゅっとした」長身を折り曲げ、苦悩の表情を浮かべて一期一会のドラマを演出する。それが橋本孝之の表現であり、「他のプレイヤーと似た感じではつまらない」と熱く語ってくれたかれの矜持のあらわれでもあった。そしてsaraさんもまたその場限りのエモーションを表出させてみせる表現者であることを、.esの演奏を観て知ることとなった。.esの拠点たるギャラリーノマルに足を運んでみたいと思っているうちに橋本さんは急にこの世を去り、代表の林聡さんにもお会いできなかった。

ノマルが新しい表現を生み出す場であったことは、saraさんとヴォイスの神田綾子さんとのデュオ『FUJIN/RAIJIN』を聴いても実感できた。宇都宮泰さんが旧知のふたりを結び付け、誰にも真似ができない録音技術を使い、「Utsunomia  Mix」シリーズのサウンド作品として完成させたのだ。

つまり、他のだれかやなにかと「似ていない」のは橋本さんだけでも.esだけでもなかった。

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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