お会いできなかった 齊藤 聡
橋本孝之さんのプレイは「サックス演奏」というフィルターを通して観るべきものではなかった。モノトーンでスタイリッシュに決め、関西ふうにいえば「しゅっとした」長身を折り曲げ、苦悩の表情を浮かべて一期一会のドラマを演出する。それが橋本孝之の表現であり、「他のプレイヤーと似た感じではつまらない」と熱く語ってくれたかれの矜持のあらわれでもあった。そしてsaraさんもまたその場限りのエモーションを表出させてみせる表現者であることを、.esの演奏を観て知ることとなった。.esの拠点たるギャラリーノマルに足を運んでみたいと思っているうちに橋本さんは急にこの世を去り、代表の林聡さんにもお会いできなかった。
ノマルが新しい表現を生み出す場であったことは、saraさんとヴォイスの神田綾子さんとのデュオ『FUJIN/RAIJIN』を聴いても実感できた。宇都宮泰さんが旧知のふたりを結び付け、誰にも真似ができない録音技術を使い、「Utsunomia Mix」シリーズのサウンド作品として完成させたのだ。
つまり、他のだれかやなにかと「似ていない」のは橋本さんだけでも.esだけでもなかった。