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R.I.P. 林 聡No. 320

最後のメッセージ 建畠 晢

ギャラリーノマルのパートナーである今中規子さんから林聡さんが亡くなったという電話をいただいたのはノマルの三十五周年を記念する展覧会が始まった直後のことであった。

そのオープニングで林さんは車椅子に座りながらだが、普段とは少々異なった力強い語気であいさつされ、現代美術に対して画廊が担っている使命の重要性をストレートに述べられた。私にはそれは三十五年を締め括るものではなく、これからの活動に向けての決意であるように感じられたのである。だが今思い返すなら、あのメッセージはアートにかかわる人たち皆に言い残しておかなければならない自らの信念を最後の気力を振り絞って語ったものであったに違いない。

この十数年、私は大阪に行く度にノマルに立ち寄った。林さんが開催する個展と私が日頃から関心を持っているアーティストがほぼ重なっているということもあるが、また作品を見ながら林さんや今中さんと語らう時間が楽しかったこともある。今中さんはピアニストの saraとして橋本孝之さんとドットエスというユニットを組んでおり、私は彼らと(橋本さんが急逝された後はソロの saraさんと)何度も詩の朗読のコラボレーションをし、LPを制作したこともある。

実は今回の三十五周年記念展は林さんの企画で、私の詩集から林さんが選んだ17篇をアーティストたちに提供して自由に版画を制作してもらい、版画が完成した段階で、saraさんのピアノと私の朗読のコラボレーションをCDに収録し、詩画集とセットにするという、大掛りなプロジェクトであった。素晴らしくユニークな作品を制作してくださったアーティストの皆さんには深く感謝している。

林さんは自らが見込んだアーティストたちを長年継続して支えると同時に、常に新たな才能の発見にも努めていた。信頼するに足る敬愛すべきギャラリストにして版画工房のオーナーでもあった林聡さん。彼と語らった心温まる日々は永遠に過去のものになってしまった。今はただ心からご冥福をお祈り申し上げます。

*写真キャプション
2024年9月14日、詩画集「詩人と美術家とピアニスト」のためのCD音録音後。前列林聡、宇都宮泰(録音/マスタリング)、後列左より田中朝子(出展作家)、sara(.es)、建畠晢。同タイトルの展覧会開催前で、搬入された作品群を見てから建畠+saraの即興演奏を行った。


建畠晢(たてはた あきら)

1947年京都生まれ。早稲田大学文学部卒。美術評論家、詩人。詩人としては歴程新鋭賞、高見順賞、萩原朔太郎賞を受賞。ドットエスと(橋本孝之の没後はピアニストの saraと)しばしば詩の朗読のコラボレーションを行い、LP,CDなどを制作してきた。

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