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R.I.P. ジャック・ディジョネットNo. 332

私の思う、ジャック・ディジョネットへ by みどりん

Text by Midorin みどりん

ジャズという音楽を聴く快感に気づき始めた筈の忘れもしない中学二年生、オスカー・ピーターソン・トリオは『煩(うるさ)いポップスバンド』でありバド・パウエル・トリオを末期しか認めない親の耳の元に育ったある日。
兎角変わり者と言われる類が親が好きなのは理解出来ていたが、コルトレーンと組んでるエルヴィン・ジョーンズの他に何かないかと聞いてみたらこれはどうだと勧められたピアノトリオがあった。
キース・ジャレット・トリオのライヴアルバム『ボディ・アンド・ソウル』の、兎に角一曲目を聴いてみたらどうだ?と。その言葉のままにCDプレイヤーに心を委ね、ピアノ独演から始まる音に対しても心を委ねて行った、筈が。

セロニアス・モンクの歪なメロディーを「ひたつく」様に絡みつくシンバルから成る武骨な8ビートだけども何だかガタガタしてるなこれ…。
のちに気づくがこれは聴く限りではニューオリンズ・スタイルでの演奏なのか?カタチが捉えられない、だが其処に心配など皆無な程に自我からのリズムへの解釈に有無を言わせることが無いぜと言うくらいの衝撃を受ける。

この事柄は後に自己解釈した内容であった。
キース・トリオのライヴは「ベムシャ・スウィング」で始まる、それこそ親のご推薦の一曲だ。
正直なところ、頭の胃の中もぶっちゃけ気持ち悪かった、何なら聴き続けると吐き気を催す位だというのが最初の印象だ。
定型なスウィングビートを現す一瞬が、聴いた限り一度たりとも無い。
全体を支配する「ハネてる」雰囲気もほぼ皆無、かといってエイトビートというかロックな感じとも言えない不思議なフィーリングの、このフワフワした乗り(ノリ、かも知れない)は何なんだろう?
ドラムは始終ポツンポツンとアンサンブルに対して音を置いていくだけ、ビートで引っ張る感じもない。
ドラムソロなんて数えられない感じで取るのに、何で他のメンバーばちゃんと曲の頭で戻って来るの?
不思議だらけの頭の中になってしまった。
一体これは、ドラマーは誰だ?
クレジットを見たら名前はジャック・ディジョネットだって?
それならと思い彼のクレジットを追ってみてビル・エヴァンスのお城のジャケットのアルバムを聴いてみる。
ほら、やっぱりドラムソロで曲の拍が取れないじゃんかよ…!

それからこの頭の中に強い興味が湧き出して、今に至る。
今なら厨二病たる自分が過去にそんな事を思って来た全てに於いて、実はジャック本人に自分のプレイスタイルに対しての確固たる理由とドラム、或いはその他の打楽器、そして彼のもう一つのメイン楽器であるピアノをまさしく全ての楽器を同じ感覚でプレイでリズムと共に空気の振動で「歌う」意思が存在する事もやっと理解出来た気がしている。
彼のインタビューで印象に残っているのは
「自分には心臓(核となるビート)が二つあるんだ、一つは必ず同じ位置にいてビートを続ける、もう一つはその周りを自由に動き回ってる、だけどもう一つの心臓を常に気にして動いてるのさ」
という内容だった。
同じドラマーでありジャズをプレイする人間として、こんなに全てのジャズプレイヤーが自ら鍛錬して為すべき仕事を的確に言い当てた言葉は、自分にとっては他が見当たらないくらいだ。
ある国内雑誌でのニューアルバムのプロモーションのインタビューでは楽器のことについて聞かれているのに、受け答えが全て自然と環境破壊についてのコメントで埋め尽くされていたりと、とてもピュアな人なんだろうなと感じる。
まさかそんなトリオを渋谷オーチャードホールで実物を拝める事になるとも思わなかったし、後にそれが『TOKYO ‘96』というアルバムになるとも思ってなかった。

そのプレイの個性は他の追従を許さない、いやもうそんな言葉は他でも昔から散々野生味溢れるイメージで言われ続けているのだろう。
『とてもバッキングとは思えない、強力無比なフィルイン』という言葉を何処かのライナーノーツで見かけたが(確か日本制作のアルバム『ハヴ・ユー・ハード?』の中だったかと)、この文句自分はジャックを言い当てる言葉として本当大好きなんですよね。
繊細なプレイヤーでもある証拠だって勿論沢山あるし、彼が当時のECMレーベルに於いて数多くのアルバムでプレイした「イーブン・エイト・ビート」と称されるそのリズム・フィギュアは、全てのジャズドラマーに確かな新しい表現の広がりを示してくれていた。
隠れたECMライヴ名盤『パーカッション・プロファイルズ』では参加者全員が神レベルな打楽器奏者である中でも、特に群を抜いて先の流れを時には無茶に変える程に音のプライオリティが違う。晩年期の歌手、ベティ・カーターのバンドでも強力無比なフィルインで全てを鼓舞し続けるその様はまるで雷神かと思わせる位に生き神様だった。
後にレーベルを立ち上げるが、彼の基本姿勢はピースフルそのものをプレイや作曲で成し遂げていく。

色の付いたタイトルが多い彼の曲、そんな中でも『シルヴァー・ホロウ』という曲は何とも儚い世界観を特に感じてしまう。

彼を追って、追いかけて、そして我々は彼を現世から失った。
そしてその魂は、生き続ける。

Betty Carter Live at The Hamburg Jazz Festival 1993 Full Concert


みどりん Midorin
ドラマー。1978年、福島県いわき市生まれ。“デス・ジャズ”バンド、SOIL&”PIMP”SESSIONS、ピアノトリオJ.A.Mには2023年まで在籍。同バンドでの活動のほか、さまざまなアーティストのライヴ、レコーディングに参加。経歴としては、ノラ・ジョーンズのJAPANプロモーション、松浦俊夫 presents HEX、WAVESへの参加の他、ハナレグミ、レキシ(レキシネーム「大仏ランドのプリンス」)、秦基博、BONNIE PINK、椎名林檎、原田知世、福原みほ、いきものがかり、あいみょん、AI、石川さゆり、KYOTO JAZZ MASSIVE、吉澤はじめ、五十嵐一生等といったアーティストたちと共演を果たしている。

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