このライブ/このコンサート2011国内編#09 『白石かずこ(詩・朗読) 井野信義(b) 巻上公一(theremin)』
JAZZARTせんがわ
2011年9月9日 @せんがわ劇場
text by 横井一江
せんがわ劇場のステージに登場した白石かずこは、311の直後に書いたという詩「海、陸、影、」を読み始めた。津波が去ったばかりの人影のない海岸線を訪れ、帰京してすぐに書いたという詩である。語られる言葉の中に情景が浮かびあがり、言霊が亡き者達の霊魂と出会っているかのよう。それは実際に撮られた映像があまりに凄まじかったゆえにまるで映画の一部を見ているようにしか思えなかったのと違って、昇華されたリアリティで迫ってくる。詩人のコトバは、人々が伝えきれないものを語ってくれるのだ。巻上公一が出すサウンドが時に囁くような人声にも聞こえ、寄り添うようにベースを弾く井野信義と共に、言霊を受け止め、詩の世界に奥行きを与えていた。客席に座っていた人の多くがその世界に吸い込まれていたのではないだろうか。感極まったように「ありがとうございました」といったん退場し、再びステージに戻った白石は「鯨たちに捧げる」、朗読の場ではおなじみの詩「キツツキ」などを読む。ウイットに富んだ言葉と音楽のコラボレーションで、三陸の海と陸と影の世界に連れ込まれてしまった私は現実の世界に戻り、再び息をすることが出来たのだ。311以降、それ以前に増して、ネット上ではいろいろな言葉の切れ端が溢れ続けている。そういう時代だからこそ詩が必要であると、世界的な詩人である白石のパフォーマンスを観ながら思ったのだった。