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From the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 304

From the editor’s desk #14 「メディアの行方」稲岡邦彌

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

「ジャズ・ジャパンの三森さんが亡くなったらしいというメールが届きました。存知であればお教えください」というメッセンジャーが届いたのは7月2日の午後1時過ぎだった。三森氏の旧職場、スイング・ジャーナル誌の編集OBからだった。訃報の流れは早い。三森さんと個人的にとくに親しい間柄でもなかった筆者にまで問い合わせてくるというのは、よほど情報が制限されているのだろうか。同誌に寄稿している情報通数人にあたってみたがいずれも寝耳に水の状態。しばらくして当人から続報が入った。「確認が取れました。残念です」。「体調を崩して先週頭から休んでいたようです。連絡が途絶えたため警察に自宅をみてもらったところ亡くなっていたとのこと。自死では無いですが、孤独死のようです」。
三森隆文。『スイング・ジャーナル』廃刊のあとを受け、自力で月刊『Jazz Japan』を立ち上げた男である。何かの会合で顔を合わせた時、「稲岡さん、Jazz Tokyo を超える意気込みで Jazz Japanと名乗らせていただくことにしました」と挨拶されたことがある。その意気や大いに良し。『スイング・ジャーナル』のあとを継いで、ジャズ専門誌の活字媒体の中心的存在となることを期待し、求められるままに何本か寄稿し、1年ほど輸入盤の紹介欄を受け持ったこともある。しかし、web-magazine と違って活字媒体は経済的なリスクが大きい。収益の過半は雑誌そのものの売り上げではなく広告料のはず。これは古今どの媒体も同じであろう。
しばらくして、三森隆文名義のFacebookを通じて、編集部から訃報が発信された。逝去は7月1日。先週、編集部から届いたメールによると9月号の原稿は揃っているので刊行する予定とのこと。三森氏が創刊の言葉を掲載したのは2010年8月28日だから、来月号は創刊14年記念号になるのだろうか。連載寄稿家の中には「ひとり50万円ずつ出資すれば10人で500万円。500万あればなんとかなるのでは」と提案するベテランもいるが、要はいかに継続させるかだ。500万は数ヶ月で費消されてしまうだろう。いかに継続的にスポンサーを確保し経費の過半を賄うことができるかだ。雑誌の売り上げにそれを期待するのは常識的には難しい。
創刊にあたって三森氏は愛車を売るなど私財を投じたと聞いた。志半ばの不慮の死は無念やる方ないだろう。なんとか彼の遺志を繋ぐ方法はないものだろうか。月刊『Jazz Life』、隔月刊『ジャズ批評』にかつての勢いが見られないだけに 『Jazz Japan』の続刊が強く望まれるところだ。
ところで、今月(7月)になって音楽・音響関係の活字媒体2誌の休刊が伝えられた。出版業界では「休刊」は、すなわち「廃刊」に通じる。2誌とは、『レコード芸術』と『PROSOUND』。『レコード芸術』は音楽之友社を象徴する月刊誌で、「レコ芸」の愛称でとくにクラシック・ファンの間ではバイブル的存在だった。創刊は1952年3月だから70年を超える歴史を誇る。2022年度に第60回を迎えた同誌主催の「レコード・アカデミー賞」を目指して、レコードやCDの制作に励んできたメイカーや関係者も多いことだろう。休刊
の理由として同誌は、「近年の当該雑誌を取り巻く大きな状況変化、用紙など原材料費の高騰等」を揚げている。具体的な事実として、月間500タイトル リリースされていたクラシックCDが100タイトル前後に激減、部数も10万部から5万部に減少、それにつれ広告料も漸減、3年前から続いていた赤字を食い止められなかった、ということになる。
一方の『PROSOUND』は、ステレオサウンド社発行の文字通りプロユースマガジン。40年の歴史を誇り、“サウンド・プロフェッショナルのための音響技術専門誌”を謳う。隔月刊で、2023年6月号の通巻235号を迎えたところで、突然、休刊が告知された。プロユースだけに内容によってはバックナンバーにプレミアムがつくことも珍しくないという。例えば、精力的な全方位的活動を展開しているサウンド・エンジニアのオノ セイゲンの連載「SAIDERA PARADISO」は、今年8月126回を迎えたところで惜しくも打ち切り。最近では、池袋・新文芸坐に構築された「Bungei-phonic Sound」についての詳細な解説などが話題を呼んでいた。なお、休刊の表向きな理由は、「コロナ禍による広告収入の激減」ということになる。
いずれにしろ、音楽/音響業界における活字媒体の相次ぐ休刊の要因は、デジタル時代のリスニング環境の大いなる変化ということになるのだろう。
*文中敬称略。個人情報に関わる部分は、誤った情報の流布を避けるため敢えて公開に踏み切った。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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