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Monthly EditorialFrom the Editor’s Desk 稲岡邦彌No. 285

From the Editor’s Desk #4「日本ジャズ音楽協会」(JJMA)

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

思いがけず、日本ジャズ音楽協会から2021年度の「会長賞」をいただいた。本誌でも健筆を奮っているNIKKEIラジオのディレクター小西啓一と並んでの受賞だった。協会から、受賞者は協会の存在をアピールするようにと、記念品(和光の置き時計)と並んで小冊子を10冊いただいたので、メディアとして早速、協会について紹介したいと思う。
正直なところ、日本ジャズ音楽協会の存在を知ったのは昨年、本誌悠雅彦主幹が評論家の寺島靖國と並んで「会長賞」を受賞したことがきっかけだった。公式サイトによれば、一般社団法人 日本ジャズ音楽協会(JJMA) は、2017年9月に元国務大臣の石井一と元日本レコード協会会長の佐藤修の音頭により設立されたとある。設立の目的は以下の通り;

我が国の音楽文化に多大なる貢献を果たしてきたミュージシャン、ポピュラー・ボーカリスト等の音楽関係者に本来受けて然るべき評価をもたらすべく、各界へ積極的な働きかけを行うとともに、広く本邦の芸術文化、わけてもジャズ音楽関係者の社会的評価のさらなる向上に寄与する事を目的と致します。

理事長の石井一は、1934年神戸の生まれ、衆参両議員として自治大臣を始め国会の要職を多数歴任してきた実力派議員だが、最も我々の記憶に残るのは1977年の「ダッカ日航機ハイジャック事件」だろう。現地に乗り込み、ハイジャック犯と渡り合い人質解放に尽力した。石井は、1953年に父親が招聘したJATPの演奏を聴いてジャズに目覚め、甲南大時代にはテナーサックス奏者としてバンドを組み全国行脚したという筋金入り。一方の佐藤修は慶応大OBで、1964年に日本ビクター入社以来、ポニーキャニオン会長、日本レコード協会会長など要職を歴任、複数の叙勲歴を誇るレコード業界随一の仕事人として知られる。ジャズとの関わりはルイ・アームストロングで、そのコレクションは世界有数と言われている。

授賞は、ジャズ大賞、会長賞、奨励賞、功労賞の4部門があり、詳細は公式サイトに委ねるが、今年の「ジャズ大賞」のひとりに同年輩の Sabuこと豊住芳三郎を見つけたことがことのほか嬉しかった。ともに、受賞には縁遠い在野の人間と思っていたからだ。11月24日に行われた紀尾井町での授賞式には今村裕司や森山威男などの「ジャズ大賞」受賞者の欠席も少なからずいたが、市川秀男、稲垣次郎など懐かしい顔ぶれが揃った。「会長賞」では昨年度受賞の寺島靖國が隣席で、いきなり「トルド・グスタフセンを知ってるか?」と問われ、驚きのあまり顔を見直したものだ。寺島靖國の口から「トルド・グスタフセン」の名前が、しかも淀みなく発せられたからだ。「サックスでしょ」とカマをかけたら、「何言ってるんだ、ピアノだよ」。「しかし、ECMはいいねえ。ここのところ、聴きまくってるんだ。あの奥行き感のある録音が素晴らしい!」。“ハード・バップの伝導者”を自認し、ブルーノートのルディ・ヴァン・ゲルダーを師と仰いできた寺島靖國の口から出た言葉とは信じ難かった。思い返せば70年代、各社のジャズ・ディレクターが毎夜のように吉祥寺に参集、飲みながら激論を戦わせた時代、寺島靖國が決まって言うセリフがあった。「稲岡くん、ハードバップが木の幹だとしたら、前衛やECMは葉っぱみたいもんだよ」。折りしも今年2月号で月刊「STEREO」がECMの大特集を組み、「寺島靖國が選ぶECM5選」が掲載されるという。氏の論評に注目したい。思いがけない再会も受賞パーティの功徳である。

閑話休題。
JJMAは、公式サイトでも授賞式の理事長挨拶でも叙勲を意識した発言が印象に残ったが、叙勲はあくまでそれなりの実績や功績があって初めて授与されるものだろう。ジャズ界ではその実績を上げるためのリソース不足が積年の課題であるはず。コロナ禍対策の文化庁肝煎りのAAF(ARTS for the Future)交付金(補正予算事業)でも現場ではその内容や対応に多くの不満があったと聞く。文化事業は一時的な付け焼き刃では対応し切れるものではなく、長期的展望に立った取組が必要である。欧米諸国に比して日本のアートに対する国家、自治体の政策の貧困は内外から長らく指摘され続けているにもかかわらず一向に改善の兆しがみられない。ジャズに限って言えば、歴代の文部大臣でジャズに触れた発言を記憶するのは唯一砂田重民文部大臣(1977年11月福田内閣で入閣)という寂しさだ。民間の法人では自らのリソースで若手に奨学金を用意したり、活動を助成したり、ミュージシャンの老後の安定を手助けするなどは不可能である。民間の財団でも多額の基金を用意し内外のワールド・クラスのアーチストに賞金を授与するシステムは2、3あるが、いずれも功なり名を遂げた大家が対象である。JJMAの初期の目的は充分認めた上で、政府や自治体にジャズや音楽を幅広く助成する行政を行うべく働きかける団体の出現は期待できないだろうか。我々業界関係者も微力を結集し、側面援助できるはずだ。今年は、King of Jazz ルイ・アームストロングの「生誕120年 没50年」のジャズにとって記念すべき年であった。そのタイミングを見逃さなかったのはNHKである。FMで9時間の特集を組み、朝ドラではサッチモをうまく取り込んだ「カム・カム・エブリバディ」が人気だという。本来はジャズ界こそこのタイミングを最大限に活用、ジャズの存在と楽しみをアピールすべきだったのではないかと残念至極である。
最後になったが、12月26日に神田・神保町の老舗ジャズカフェ「アディロンダック」で、会長賞受賞を祝う集いがあった。ささやかではあったが、心に響く主催者の言葉があったので書き留めておきたい。「今回の会長賞は、ミュージシャンとリスナーの間に立って言葉を持ってジャズを伝え続けた我々仲間の功績が認められたことがとても嬉しい」。(文中敬称略)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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