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ジョアン・ジルベルト逝く(1931.6.10 – 2019.7.6)

Photo: 2006年11月 東京国際フォーラム (c) 2019 PROMAX Road And Sky Music Publishers
Text by Hideo Kanno 神野秀雄

R.I.P.João Gilberto Prado Pereira de Oliveira (10 June 1931 – 6 July 2019)

ブラジルの作曲家、歌手、ギタリストで、1950年代半ばに始まったボサノヴァ・ムーヴメントの常に中心にいて、そのサウンドの創始者となり、世界中から愛されたジョアン・ジルベルトが、2019年7月6日にリオデジャネイロで亡くなった。息子のジョアン・マルセロ・ジルベルトがFacebookで伝え、娘のベベウ・ジルベルトも父との思い出をFacebookに寄せている。葬儀は7月8日9時にリオデジャネイロ市立劇場で予定されているが、公開されるかどうかは未定となっている。

ジョアンは、この6月10月に88歳の米寿を迎えたばかりで、病名は明らかにされていない。この数年の大部分は、リオデジャネイロのレブロンのアパートに独りで住み、ときにギターを弾き歌っていたという。晩年は、コンサート中止やアルバム制作を履行しなかったことなどにも起因して、経済的に困難もあり、最終的にはベベウが後見人となっていた。ジョアンには、アストラッド・ジルベルトとの息子マルセロ、ミウシャとの娘ベベウがいて、いずれもミュージシャンになり、またクラウディア・ファイソルとの間に一子を設けている。O Globoは、最近、弁護士Gustavo Carvalho Miranda と 晩年付き添っていた Maria do Céu とともにシェラスコレストランで撮影された写真を掲載している。

1931年ブラジル、バイーア州ジュアゼイロ生まれ、14歳でギターを手にし音楽に夢中に。1950〜55年ごろリオで演奏活動を行い、ファーストアルバムもリリースするが振るわず、ミナス・ジェライス州ジアマンチーナの姉の家に移り、バスルームにこもってガットギターを弾き続け、サンバのリズムにインスパイアされながら穏やかにギターで表現する演奏スタイルを確立する。1957年にリオに戻り、アントニオ・カルロス・ジョビン(1927〜1994)とヴィニシウス・ヂ・モライス(1913〜1980)と出会い共同作業が始まる。1958年、エリゼッチ・カルドーゾの「カンサォン・ド・アモール・ヂマイス」にギタリストとして参加し<Chega de Saudade>(想い溢れて、No More Blues)を録音しているが、同年、ジョアンのヴォーカルで再録音されたヴァージョンが次第に評判を得てボサノヴァ・ムーヴメントを決定づける。また、同時に録音されたジョアン作による<Bim Bom>も最初のボサノヴァとなる。その後、ボサノヴァを象徴する声として、<Corcovado>、 <Aquas de Marco>(3月の水)、 <Desafinado>など、名曲の数々もジョアンの演奏により記憶される。

このチームにスタン・ゲッツ、アストラッド・ジルベルトを含め制作された『ゲッツ/ジルベルト』、特に<Garota de Ipanema>が世界的ヒットとなり、1965年グラミー賞アルバム・オブ・ザ・イヤーを受賞。アメリカのジャズ界そして、世界の音楽シーンに与えた影響はあまりにも大きい。

ブラジル軍事政権により文化が抑圧される中、アメリカに1980年頃まで住むが、リオに戻り、2008年までコンサート活動を続けた。2003年に宮田茂樹の尽力により奇跡の初来日が実現、その後、2004年、2006年と3回の来日を果たす。宮田茂樹の当時の「ほぼ日刊イトイ新聞」記事から、「もう少しジョアンのこと」「ボサノバを作った男」を紹介しておきたい。2003年の公演が『ジョアン・ジルベルト・イン・トーキョー』としてリリースされ、2006年の公演が『ジョアン・ジルベルト ライブ・イン・トーキョー 2006』として、世界初、唯一の公式ライブ映像としてBlu-rayで発売され、さらに、東京・名古屋・大阪の映画館のスクリーンで上映された。2019年8月24日には、映画「ジョアン・ジルベルトを探して」の公開が予定されており、ジョアンの足跡を辿りながら、その偉業を偲び感謝したい。

ありがとう、さようなら、ジョアン。

『ジョアン・ジルベルト ライブ・イン・トーキョー』予告編

Chega De Saudade (1959)

Bim Bom (1959)

『Elizete Cardoso / Canção do amor demais』(1958)- Chega de Saudade

Desafinado from 『Getz/Gilberto』 (1963)

The Girl from Ipanema from 『Getz/Gilberto』 (1963)

Chega de Saudade – João Gilberto e Bebel Gilberto

Garota de Ipanema – Tom Jobim e Joao Gilberto Reunited

映画「ジョアン・ジルベルトを探して」予告編

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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