追悼 リー・コニッツ 〜 クールジャズからECMまで活躍したサックスプレイヤー
Jacob Bro: Vinterhymne from 『December Song』 (2013)
Jakob Bro (g), Bill Frisell (g), Lee Konitz (as), Craig Taborn (p), Thomas Morgan(b)
R.I.P. Lee Konitz (1927.10.13 – 2020.4.15)
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Takehiko Tak. Tokiwa 常盤武彦
アルトサックス奏者のリー・コニッツが、新型コロナウイルスCOVID-19による肺炎のため、ニューヨーク・セントラルパーク近くのレノックス・ヒル病院 (Park Av & E 76th St) で92歳で亡くなったことが、息子のジョシュ・コニッツにより公表された。
クールジャズを代表するサックス奏者であり、『マイルス・デイヴィス/クールの誕生』の「最後の生き残り」と記憶されるリスナーも多いと思うが、その時期を遥かに超えて2019年に至るまで活発に演奏活動を行い、数多くのアルバムを残している。
「JAZZ TOKYO」的視点では、1997年の『Kenny Wheeler / Angel Song』(ECM1607)、2011年の『Live at Birdland』(ECM2162)、ヤコブ・ブロとの共演で、2008年〜2013年の『Time』、『Balladeering』、『December Song』などに注目したいところだ。
初来日は1973年、最後の来日は「東京JAZZ 2017」での、挾間美帆指揮、デンマーク放送ビッグバンドとの「ジャズ100年プロジェクト」となった。
●クールジャズ誕生をリード
リー・コニッツは1927年にシカゴで生まれ、11歳でクラリネットを始め、テナーサックス、そしてアルトサックスに転向した。
1946年に編曲にギル・エヴァンス (1912-1988)、作曲にジェリー・マリガン (1927-1996) を擁していたクロード・ソーンヒル (1908-1965)・オーケストラに加入、そこではすでに “クールジャズ” が生まれつつあった。同楽団からギルやジェリーなどが参加したマイルス・デイヴィス・ノネットに加わり、『マイルス・デイヴィス/クールの誕生』は1949-1950年に録音、アルバムは1957年にリリースされた。
ほぼ同時期に、代表作となる『Subconscious-Lee』をレニー・トリスターノ (1919-1978)、ウォーン・マーシュ (1927-1987)とともに録音している。<Subconscious-Lee>は<What is This Thing Called Love?>、<Hot House>のコード進行に一聴、無機的で抑揚のないリフをつけたもので、トリスターノ派ではこの手法はよく使われた。1950年代にはスタン・ケントン楽団でも活躍した。
Claude Thornhill Orchestra – Anthropology (1947, Arr. Gil Evans)
Miles Davis – Moon Dreams (Official Video)
Subconscious-Lee – Warne Marsh and Lee Konitz – TV show “The Subject is Jazz”, 1958
Lennie Tristano Quintet at the Half Note (with Lee Konitz & Warne Marsh) 1964
Bill Evans & Lee Konitz – Live at Denmark 1965 – Tivolis Koncertsal
●ECMリーダーアルバムとケニー・ホイーラー
リー・コニッツとECM周辺の関わり、というよりも、言うまでもなくマンフレート・アイヒャーがECM Recordsを創設するにあたり、リー・コニッツらが築いて来たクールジャズサウンドに深く影響を受けており、ECMの大切なDNAのひとつとようやく結びついたというところであり、それだけに年齢を感じさせず、あまりに自然に溶け合うことには驚く。1990年代からはケルンに長く住み、若い世代、ヤコブ・ブロ、マーク・ターナー、ウォルター・ラング、フロリアン・ウィーバーら若い世代との共演を重ねた。少し遡ると、1982年のに19歳のミシェル・ペトルチアーニとの共演『Toot Sweet』がある。
ECMと関連するイベントではないが、オーネット・コールマンも創設者の1人であるクリエイティブ・ミュージック・スタジオの10周年記念で開催された「ウッドストック・ジャズ・フェスティヴァル 1981」での顔ぶれは興味深い。創成期のECMや、『Circle / Paris Concert』(ECM1018/19)や『Pat Metheny 80/81』(ECM1080/81)につながる響きの中でも、リー・コニッツの暖かみのある音が生きている。
The Woodstock Jazz Festival, Woodstock, NY 1981
Chick Corea (p), Pat Metheny (g), Miroslav Vitous (b), Jack DeJohnette (ds),
Lee Konitz (as), Anthony Braxton (as) 他 別途、Nana Vasconcelos (perc) も登場
1997年にケニー・ホイーラーをリーダーに録音された『Angel Song』(ECM1607) は極めて高い評価を受けており、「JAZZ TOKYO」のケニー・ホイーラー追悼特集でも何かと言及されている。メンバーは、ケニー・ホイーラー (tp, flgh) に加えて、デイヴ・ホランド (b)、ビル・フリゼール (g) が参加した。
L+R Photo: Patrick Hinely
L+R Photo: Patrick Hinely
KENNY WHEELER Quartet / Nicoletta – Live In London 1995
Kenny Wheeler (tp), Lee Konitz (as), Bill Frisell (g), Dave Holland (b)
ECMでの唯一のリーダー名義、かつ最後の録音となったのが『Lee Konitz Live at Birdland』(ECM2162)。ブラッド・メルドー、チャーリー・ヘイデン、ポール・モチアンとの録音。カヴァーアートはジャン=リュック・ゴダール。このライヴは常盤武彦が撮影しており、稲岡邦彌によるアルバムレビューを参照されたい。チャーリー・ヘイデンとポール・モチアンはその後亡くなったが、2015年1月13日のチャーリー・へイデン追悼コンサートでは、ブラッド・メルドーとリー・コニッツによるブルースが演奏された。
L+R: Takehiko Tak. Tokiwa
L+R: Takehiko Tak. Tokiwa R: At “Charlie Haden – A Memorial and Celebration of His Life”
●ヤコブ・ブロとの共演
デンマークのギタリスト、ヤコブ・ブロとは3枚で共演している。『Balladeering』(2008年録音) では、ビル・フリゼール(g)、ベン・ストリート(b)、ポール・モチアンとともに、『Time』(2011年) では、ビル・フリゼール(g)、トーマス・モーガン(b)との共演となる。『December Song』(2013年) にはこれにクレイグ・テイボーン(p) が加わる。この下と冒頭の動画は『December Song』からのものだ。その他の動画はヤコブ・ブロ公式チャンネルをご参照いただきたい。
Jacob Bro / Weightless
●最近の来日とアルバムリリース
1996年10月9日、内橋和久の主宰により神戸で「第1回 フェスティバル・ビヨンド・イノセンス」が開催され、リーは、内橋の他、芳垣安洋、山本精一のそれぞれとデュオで演奏、その他、日本各地で日本のミュージシャンと演奏を行った。
2008年7月には、ダン・テプファー(p)、リッチー・バーシェイ(ds)とのトリオでビルボードライブに出演。この記事に記載した以外の来日公演については網羅できていないので、ご存知の方はコメントにお知らせいただければ幸いだ。
Lee Konitz & Dan Tepfer at the Black Diamond, Copenhagen, August 12, 2017
2013年の東京JAZZにリー・コニッツ・カルテットで来日、2017年には、東京JAZZの「ジャズ100年プロジェクト」に出演、挾間美帆指揮、デンマーク放送ビッグバンドをホストとして、『マイルス・デイヴィス/クールの誕生』より<Boplicity>を演奏し、これが最後の来日となった。
最近に至るまでアルバムを続々と出している。2017年に、ケニー・バロン(p)、ピーター・ワシントン(b)、ケニー・ワシントン(ds) による『Frescalalto』をリリース。2018年にフランス人ピアニスト、ダン・テプファーとのデュオで『Decade』を、オーケストラとサックスのための作品『Guenter Buhles / Prisma』を残した。
2018年3月にスペインで行なったレコーディングとライブのドキュメンタリーが残されている。たぶん映像で見る最後の機会と思われるが、自らの身体を気遣いながらも元気に演奏する姿を見ながら、時代を超え、世代を超えて、素晴らしい音楽を届けてくれたリー・コニッツを見送りたい。ありがとうございました。
Lee Konitz in Spain (Full Documentary)