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風巻 隆 * 新作ソロCD『ただ音を叩いている/PERCUSSIO』
Takashi Kazamaki releasing new solo CD『Percussio』

1980年代、ニューヨークの新しい即興シーンに飛び込み、90年代以降、ヨーロッパやエストニアのミュージシャンとコラボレーションを続けてきたパカッショニストの風巻隆。2005年、キッド・アイラックからリリースされたソロCD『ジグザグ/zigzag』以来、17年ぶりとなる新作ソロCD『ただ音を叩いている/PERCUSSIO』が、オフノート(off note)レーベルから、22年5月にリリースされることになった。

2016年11月、閉館の決まった明大前キッド・アイラック・アート・ホールでの最後のソロライブと、2019年8月、近年、風巻が活動の拠点にしている綱島ナマック・カフェでのソロライブの演奏から構成されたこの新作CDは、1982年の自主製作LP『風を歩く』から始まった風巻の、音楽と非音楽の境界線を飄々と渡り歩くような即興演奏が、「自由律の音楽」とでも呼ぶような新しい音楽の地平を見せてくれている。

1990年、ドイツEar-Rationalレコードからリリースされたカーレ・ラールとの共同名義のCD『Return to Street Level』に顕著なように、風巻のCD作品は、短い断片を組み合わせて全体を形作る、音楽のモンタージュとでもいうような作り方を続けてきた。前作の『ジグザグ/zigzag』もまた、60分に21曲という「小品集」だったが、今回の『ただ音を叩いている/PERCUSSIO』は7曲、一曲の演奏が長くなっている。

前作までは、まだドラムセットというものの機能性というものを身にまとった演奏をしていた風巻だが、今回は、バスドラを横に寝かせたフロアバスドラを使って、肩から下げたタムタムの音を変化させていくアプローチをみせ、バスドラの上に平たいバケツを置き、その上に木琴コギリをセッティングするといった変則的なセットアップで、音の表情や、倍音のゆらぎといったものを巧みに変えるスタイルをとっている。

タイコのヘッドの革の音、胴の木の音、リムの金属の音…、スティックの持ち方を変え、グリップエンドや手首、前腕、肘などでミュートし、ときにはハーモニクスで倍音を際立たせていく。いくつもの音が同時に、あるいはズレを伴って変化・変容しながら音が形を変えながら流れていく。直接には叩かないバスドラが作り出す低音域の厚みは、キッド・アイラックの箱鳴りと合わせて、このCDの聴きどころになっている。

1984年に自主コンサート「音の交差点」を開始して以来、ダニー・デイビス、ペーター・コヴァルト、トム・コラ、サム・ベネット、梅津和時、篠田昌已、大熊ワタル、大友良英 etc…、キッド・アイラックで風巻は多くの即興演奏家と共演し、その音楽を豊かなものへと発展させてきた。キッドとの別れを惜しむようなエモーショナルな演奏は、打楽器はリズム楽器だという固定観念を見事なまでに粉砕し、心に響いてくる。

20代の頃、ニューヨークのイースト・ヴィレッジの路上で、たまたま通りがかった黒人のサックス奏者デューイー・レッドマンのシャーナイと共演するという特異な体験をもつ風巻隆は、けしてジャズミュージシャンではないけれど、長い年月をかけて、60年代のフリージャズ、70年代のインプロヴィゼーション(即興演奏)、80年代の「新しい音楽(New Music)」という音楽の革新運動を新しい時代に引き継ぐように、唯一無二の演奏スタイルで独自の音楽世界を作りあげ、音楽の境界にいるようなユニークな立ち位置を築いた。

西アフリカの木琴コギリをカウベルで叩くとき、民族音楽という伝統的な枠組みが解体されて、新しい音が立ち上がってくる。深胴のブリキのバケツにストラップを付け、さまざまに動かしながら叩くと、それはもう新しい楽器になっている。手作りした革のヘッドと、進化し続ける演奏スタイル、さまざまなテクニックを駆使した誰にも真似できない音作りは、もはや「打楽(PERCUSSIO)」としか呼べないものなのだろう。

このCDのエンディングはコギリをトレモロで叩くメロディアスなアプローチになっている。そこには、20代から続けてきたキッド・アイラックとの歳月への「万感の想い」が込められている。「ただ音を叩いている」というタイトルは、即興演奏は「自分」を捨てたときに立ち現れてくるという風巻の信念でもあるのだろう。その演奏は、何度聴いても新しく感じる豊かさと、言いようのない「懐かしさ」にあふれている。

★ 新作ソロCD『ただ音を叩いている/PERCUSSIO』

off note non-27  風巻 隆 (percussion)  定価2300円+税

風巻 隆 (percussion)

1.    さかさまの世界/wonderland  7”13
2.    音楽の向こう側/drum magic 8”53
3.    街へ/marching on the road 12”18
4.    音のある風景/soundscape 8”42
5.    ゆるぎなきもの/tom-tom sprit 8”14
6.    終わるという始まり/out of the end 10”22
7.    サヨナラ/so long 5”23
Total time  61”07

Recorded live at the Kid Ailack Art Hall on Nov.29, 2016  track 1~3, 5, 7
Recorded live at the Namak Café on Aug.12, 2019  track 4, 6
Recording engineer :  Nakayama Nobuhiko
Mastering engineer :  Ishizaki Noburo

風巻 隆 ブログ エッセイ「風を歩く」
http://blog.livedoor.jp/takashikazamaki/

連絡先:takashikazamaki@h6.dion.ne.jp (風巻)
cbe09606@nifty.com(オフノート)

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