#070「絵のない絵本 シリーズ第二作〜おおごまだらになりたい」
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
書 名:絵のない絵本 シリーズ第二作―おおごまだらになりたい
朗読と音楽CD付
朗読:神野三鈴 音楽・ピアノ即興演奏:小曽根 真
著 者:稲吉紘実
発行所:フレーベル館
初 版:2013年3月
定 価:本体1,500円+税
世界中が美しい蝶の舞い飛ぶ、永遠の平和な世界になることを願って...
この絵本は、戦争の悲劇を再生し、永遠の平和な世界へと新生するという、願いと希望を込めています。そして沖縄の地を、おおごまだらの舞い飛ぶ、ピースアイランドにするという志の実現に、絵のない絵本とその収益がわずかでも役立てばと、願ってやみません。いなよしひろみ(稲吉紘実)
収益の一部は、沖縄平和祈念堂・清(ちゅ)ら蝶園におけるオオゴマダラの育成活動と東日本大震災・福島第一原発事故被災者の支援活動に寄付されます。
Library #67で紹介した「絵のない絵本ーこの星が絵でうめつくされたら」に続くシリーズ第2作である。著者・稲吉紘実、音楽+ピアノ即興演奏・小曽根 真は第1作と変わらないが、本作の朗読は女優の神野三鈴(小曽根の伴侶である)。
左頁に収められたテキストは全編ひらがなの横書きで、右頁は読者の自由な発想に基づくアート用スペースとして確保されている。展示用に用意された第1作の何冊かを目にする機会があったが、幼児からアーチストまで、詩を書き記すもの、パステルで絵を描くもの、ペン・タッチの精密なイラストで埋め尽くすもの、はたまた本格的なコラージュを施すものなど、想像をはるかに超えたアートがさまざまな形で表現されていた。インスピレーションの喚起に時任三郎とCHIKA☆の朗読、小曽根の音楽が大きく寄与したことはいうまでもない。
この第2作でも神野の朗読と小曽根の音楽がひとびとの創造力を強く刺激することだろう。その源泉は共に稲吉紘実のメルヘンである。
本作のテーマは「再生」と「新生」で、第二次世界大戦における沖縄戦で両親を失い、自らも火傷を負ってしまった少女が、沖縄に生息する美しい蝶、おおごまだらに憧れ、おおごまだらに生まれ変わることを夢見て、最後はおおごまだらになるというストーリー。
「新生」を仮託されるオオゴマダラ(大胡麻斑)は国内最大級の蝶(開羽時の大きさは約13cm)で、日本では喜界島、与論島以南の南西諸島に分布し、沖縄県の宮古島市や石垣市の市のチョウに指定されている。蛹(さなぎ)が黄金色をしていることでも知られる。
平成17年11月6日,沖縄平和祈念堂に開園した「清(ちゅ)ら蝶園」ではオオゴマダラが飼育されており、蝶園で育ったプシュケ(ギリシャ語で蝶の意)が戦没者を追悼し,世界平和の実現を祈る平和祈念像の使者として訪問者を 優しく出迎え,命の尊さと平和の大切さを訴えている。
初出:2013年5月31日 JazzTokyo #186