JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 58,749 回

BooksReviews~No. 201

#067「絵のない絵本〜この星が絵でうめつくされたら」

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

書 名:絵のない絵本―この星が絵でうめつくされたら
朗読と音楽CD付
朗読:時任三郎 CHIKA☆ ピアノ即興演奏:小曽根 真
著 者:稲吉紘実
版 元:フレーベル館
初 版:2004年7月23日
定 価:1,500円

推薦文:
「私たちは作り出すことができる。貧困のない世界、戦争のない世界、核兵器のない世界、そして、病気のない世界を。信じさえすればよい。私たち自身を、わたしたちにはできるということを。そして、そのために尽くせばよい。」
ノーベル平和賞受賞者 グラミン銀行創始者 ムハマド・ユヌス

著者・稲吉紘実(いなよし・ひろみ)は、国際的に知られたグラフィックデザイナー・アーティスト。とくに、マーク・ロゴデザインの第一人者で、国内の作品としてはすみだトリフォニーホールの耳を連想させるロゴマークが知られている。マークは内なる肖像画[芸術]と宣言し、タイ国王やダライ・ラマ、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス博士らのパーソナル・マークをデザインしてきたが、ジャズ・ファンにはポール・ブレイが来日時に富樫雅彦と録音したアルバム『エコー』(SONY,1999) のアートワークに使用されたポール・ブレイの音楽性を象徴するパーソナル・マークPBが記憶されていることだろう。
稲吉はデザイン・芸術を通じた社会貢献、平和推進活動にも積極的に参加しており、その主力とするところが自らが理事長を務めるNPO法人アース・アイデンティティ・プロジェクトの会長河原裕子らと1996年から10年をかけて世界規模で展開している「世界一大きな絵プロジェクト2016」である。これは各国の子供たちに芭蕉布に絵を描いてもらい、母親たちが縫い合わせ1枚の大きな絵を完成させるプロジェクトで、すでに国連を始め各地で展覧されている。
この「絵のない絵本 この星が絵でうめつくされたら」もそのプロジェクトの一環として企画制作されたもので、日本語版、英語版に続いて各国の言葉での刊行が予定されている。
内容は、核戦争ですべてが破壊されたある惑星を、そこで生きるものすべてが絵を描いて美しい星に再生させるというファンタジー。右ページが画用紙になっており、誰もが好き勝手に絵を描くことができる。絵の他に身近にある素材でコラージュすることも自由、と稲吉は呼びかけている。
このファンタジーを朗読しているのが俳優の時任三郎とモデルのCHIKA☆、彼らに即興ピアノでコラボレーションしたのがジャズ・ピアニストの小曽根真。最近は本格的なクラシック作品も演奏する機会が多い小曽根だが、すっかり成熟した演奏が心地よく耳に馴染む。小曽根は3トラック目で稲吉のファンタジーにインスパイアされたソロ演奏も披露しており、聴く度にさまざまなイマジネーションの世界が展開していく。
一流のアーティストが誠意を込めて制作したものだけに大人にも充分鑑賞に耐え得る作品に仕上がっている。
全員、稲吉の趣旨に賛同してのボランティア参加。収益の一部は、広島と長崎の市民による平和運動、東日本・福島原発事故の被災者支援活動に寄付されるという。

*初出:2012年7月29日 JazzTokyo #177

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください