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Books~No. 201

#071 『世界フリージャズ記』

text by 横井一江

書名:世界フリージャズ記
著者:副島輝人
版元:青土社
初版:2013年6月10日
定価:本体2,600円+税

腰巻きコピー:
前衛ジャズ/即興音楽の昨日、今日、明日
アフロ・アメリカンの先鋭な表現として産み出された「フリージャズ」は世界各地に飛び火し、いかなる変容と発展を遂げたのか。激動の現代史のもとでラディカルな表現を追い求めるミュージシャンたちに肉迫し、ヨーロッパ辺境からアジアまで世界の革新的ジャズシーンを先取りしつづける著者渾身のドキュメント。

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ジャズ評論家副島輝人が1970年代後半から『ジャズ批評』、『パイパース』などに寄稿した文章が集成され、一冊の本になった。現代ジャズの広がり、その発展と変容に迫った内容でリアルタイムの現場を伝える貴重な著作集である。

「前衛」を追い続けてきた著者は、1977年からヨーロッパや旧ソ連のさまざまなジャズ祭を訪れ、ミュージシャンや関係者と交流してきた。本書の中核を成すのは『ジャズ批評』などに発表したレポートで、それは日本のジャズ・ジャーナリズムでは報道されることが少ないジャズの最前線の動向を伝えるものだった。なぜなら、著者が訪れたメールス・ジャズ祭をはじめとするジャズ祭は、時代のアンテナとして役割を果たしており、未知の才能を発見する場所だったからである。そこに身を置き、ミュージシャンの革新的な表現を言語化して伝える。それは評価の定まった演奏にたいする批評とは違い、著者にとっての知的な冒険であり、歴史を共に歩むという道程だったと言っていいだろう。

書かれたレポートは単なる演奏評ではなく、ロードムービーのように土地の風景や人との交流、時々の世界情勢もまた浮かびあがってくるドキュメントとなっており、それを追体験する愉しさがある。当時の熱い空気を伝える「副島節」、特に70年代後半から80年代にかけての文章には、新たな発見と出会いがある現場にいるうきうき感、そして「前衛」達の演奏に興奮する姿が言葉の端々に、行間に満ちている。あとがきで著者が述べているように、「先進的なジャズは、同時代のあらゆる社会的(あるいは政治的)状況の中から生まれ」、「それは地域性、民族性に関係している場合も多い」。二次、三次情報によるレコード主体の批評ではすっぽりと抜け落ちてしまいがちなそれらの視点がきっちりあったからこそ、当時書かれたドキュメントが今も意味を持つのだ。著者は1978年からメールス・ジャズ祭などを撮った8ミリ映画を制作していた。そのこともまた文章にも反映されているのだろう。映画と文章が合わせ鏡のようになっているように私には思えてならない。

最近では、ライヴに行かなくてもライヴ・ストリームやYouTubeで演奏を見ることが出来る。日本に居ながら、海外のジャズ祭の中継映像を見ることだって可能だ。これはファンにとっては嬉しいし、それはそれで楽しめる。しかし、そのようなストリーミングは視覚が限定されているので周りが見えないし、聴衆の反応、暑さ寒さや湿度、ニオイといった空気感は伝わってこない。もちろん私も時々見て楽しんでいるが、映像だから状況が分かるわけでは決してない。本書を読みながら、言語を介するゆえに伝わってくるもの、批評やジャーナリズムが果たすべき役割ということも再考させられたのだった。

各地を訪れたレポートだけでは物足りなくなりがちな個々の音楽評だが、第1章でエヴァン・パーカー、アンソニー・ブラクストン、ジョン・ゾーンなど個別のミュージシャンについて取り上げた『パイパース』への連載記事、第6章でジョージ・ルイス、スティーヴ・レイシー、カン・テーファンなどのライナーノーツを載せることで補完しており、ジャズの革新者達がいかに紹介されてきたかもわかるようになっている。多少表現に古さを感じさせる部分もあるが、それもまた当時の音楽批評の時代性を表していて、逆に面白い。

また、第5章でこの数年のレポートや日録が付け加えられているのは、80歳を過ぎてなお未来志向、好奇心旺盛な評論家魂からに違いない。「そもそも前衛とは、それが人々に理解され始めた頃には、旧前衛となり、先端部はもう次の次元に飛躍しているものではないか」と著者は言う。その興味は「旧前衛」を論じることではなく、「先端部」を探し求めることにあり、だから著者は旅したのだ。今読んでも数十年前の文章が新鮮なのはそれゆえなのである。(横井一江)

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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