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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 217

#1296 『Ryan Keberle & Catharsis / Azul Infinito』

text & photo by Takehiko Tokiwa

Greenleaf Music GRE-CD-1047

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Ryan Keberle (tb,melodica)
Camila Meza (vo)
Mike Rodriguez (tp,pandeiro)
Jorge Roeder (b, el-b, b-fx)
Eric Doob (ds)

  1. I Thought I Knew (for Pedro Giraudo)
  2. Canción Mandala
  3. Azul (for Samuel Torres)
  4. She Sleeps Alone (for Sebastian Cruz)
  5. Quintessence (for Ivan Lins)
  6. La Ley Primera
  7. Eternity of An Instant (for Emilio Solla)
  8. Madalena

Recorded by Aaron Nevezie at The Bunker Studio, Brooklyn on October 28 & 29, 2015.

Produced by Ryan Keberle. Executive Producer – Dave Douglas.

現代ニューヨーク・ジャズ・ビッグバンド・シーンにおいて、マリア・シュナイダー・オーケストラ、ダーシー・ジェイムス・アーギュー&シークレット・ソサエティ、ギル・エヴァンス・プロジェクト、ペドロ・ジラウド・オーケストラ、ルーファス・リード(b)、ミゲール・ゼノン(as)ら重要ビッグ・バンドに於いてメイン・ソリストを務めるファースト・コール・プレイヤー、ライアン・ケバリー(tb)のユニット、カタルシスの第3作目。カタルシスは、ケバリーとマイク・ロドリゲス(tp)の2管に、チリ出身の注目のシンガー/ギタリスト(本バンドではヴォーカルのみ担当)のカミーラ・メザ、ペルー出身のホルヘ・ローダー(b,el-b)、ジャズだけでなくジャム・バンド系でもジョン・スコフィールド(g)やディープ・バナナ・ブラックアウトのメンバーとしても知られるエリック・ドーブ(ds)からなり、この4年ほどレギューラー活動を繰り広げているユニットである。

1999年にマンハッタン・スクール・オブ・ミュージックに入学するためにニューヨークにやって来たケバリーは、そのキャリアの初期から南米のプレイヤーと共演する機会が多く、そのリズムとメロディに魅せられてきた。本作は、自らのユニットで、様々な南米音楽のグルーヴに挑戦し、共演してきた南米のアーティストに捧げた曲で構成される。アメリカン・ミュージックのエモーショナルなパワーは、ブルースに根ざしているのと同様に、南米音楽もアフリカン・ミュージックの影響を見出すことが出来ると、ケバリーは語っている。前作では、リスナーに彼のオリジナル曲から何かを喚起してもらいたかったが、本作では自らが演奏してきた南米音楽からの影響を受けた音楽で、リスナーにとっての“審美的なイヴェント”をもたらしたいと抱負を述べる。

マンハッタン・スクールの同級生で、ケバリーと南米音楽が出逢うきっかけを作ったのは、アルゼンチン出身のペドロ・ジラウドだ。学生時代、2人でスタンダード・チューンを変拍子で演奏する練習を繰り返した仲で、現在まで長いコラボレーションを誇っている。ジラウドに捧げたのは、カミーラ・メザのクリスタル・ヴォイスがアルバムのオープニングを飾る“I Thought I Knew (for Pedro Giraudo)”。アルゼンチンの民族舞踊の2拍子と3拍子が同時進行するチャカレーラのグルーヴを用いた曲で、南米出身の詩人マンカ・ミロが詩をつけている。バラードの“La Ley Primera ”は、ジラウドのオリジナルであり、そのドラマティックでありながら叙情的な作風をが発揮されている。本作で多くの曲に、歌詞がついているのは、コロンビア出身のソング・ライター/ギタリスト、セバスチャン・クルーズとの共演経験が大きいとケバリーは言う。“Canción Mandala”は、クルーズに敬意を表して彼のグループのレパートリーを採用した。ケバリーは、クルーズに捧げてバラードの“She Sleeps Alone (for Sebastian Cruz)”を作曲した。コロンビア出身のサミュエル・トーレス(per)とのツアーの経験も、ケバリーに大きな影響を及ぼしている。“Mr. Azul (for Samuel Torres)”は、ケバリーが体感したコロンビア音楽のアフリカ・ルーツを意識して、コロンビアのカリブ海沿岸地方のブレレンゲのグルーヴで描いたオリジナルだ。アルゼンチン・タンゴ・オリエンテッドなビッグバンドを率いるエミリオ・ソラ(p)のビッグバンドでも、ケバリーは中枢を担っている。“Eternity of An Instant (for Emilio Solla)”はソラと、アルゼンチン出身の作家のホルヘ・ルイス・ボルゲスの「人類と生物の存在の連続性における永遠と一瞬」にインスパイアされて想像した曲で、本作の中でも、最もドラマティックな構成を持つ曲だ。2管とヴォイスが有機的に絡み合い、リズムが縦横無尽に動く。マリア・シュナイダー・オーケストラとイヴァン・リンスの共演は、ケバリーに大きな衝撃を与えた。そのハーモニーとメロディの美しさに憧れていたケバリーは、リンスと共演しその真髄に触れたケバリーは“Quintessence (for Ivan Lins)”を捧げ、エンディングで“Madalena”をカヴァーした。

3月15日のジャズ・スタンダードにおけるリリース・ライヴには、客席にペドロ・ジラウド、マンカ・ミロら南米の友人達や、マリア・シュナイダーの姿も見えた。複雑な変拍子もホルヘ・ローダーとエリック・ドーブがグルーヴィーにた叩き出し、メロディアスなラインに違和感なく融け込む。カミーロ・メザのヴォイスが、グループを美しく包み込み、ケバリー、マイク・ロドリゲスがコントラストを描く。ケバリーは、1月にこの音楽で、長年の友人の広瀬未来(tp)を中心としたジャパニーズ・エディションで日本ツアーをしている。ぜひ、サウス&ノース・アメリカン・エディションでの来日も期待される。

Ryan Keberle http://ryankeberle.com

Greenleaf Music https://www.greenleafmusic.com

 

 

Ryan Keberle & Catharsis

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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