JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 57,141 回

CD/DVD DisksNo. 251

#1592 『Toyozumi~Countryman / Sol Abstraction』
『豊住芳三郎+リック・カントリーマン/ソル・アブストラクション』

text by  Yoshiaki onnyk Kinno   金野onnyk吉晃

 

Sol Disk SD1901

Sabu Toyozumi (Drums, Erhu:2&3)
Rick Countryman (Alto-sax)

1. Sol Abstraction
2.Improvisation with Barking Dog Part I
3.Improvisation with Barking Dog Part II
4.Broken Art Part I
5.Broken Art PartII
6.Ballad of Mototeru Takagi Part I
7.Ballad of Mototeru Takagi Part II
8.Ballad of Mototeru Takagi Part III
9.Integrity of Creation

Recorded live in the Philippines on December 13, 2018 by Alvin Cornista


<抽象化されたジャズとしての『フリー』概念>

このCDを、ブラインドで、根っからのフリージャズファンに聴かせたら、こんなことを言う人もあるかもしれない。
「もしかしてジュゼッピ・ローガン? 2013年までのは聴いたけどこれは60年代に戻ったみたいだな」
幻のアルトと言われていたが、実は闘病しつつ生きていたあのミュージシャン。ESP DISKの二枚のリーダー作以外にはあまり知られていなかったが、独自のサウンドと作曲が耳にこびりついている。
しかしこれは紛れも無く、豊住芳三郎(サブ)と、アメリカの白人サックス奏者、リック・カントリーマンのデュオアルバムなのだ。
このところ、サブとカントリーマンは立て続けにフィリピンでのライブをリリースしている。それがまたフリー不毛というか、或る意味テラ・インコグニタたる同地で、現地のミュージシャンを加えてやっているから面白い。
フィリピンは、古くはスペインのカトリシズムに浸され、のちにはアメリカ文化に洗礼を受けた。早くから彼らの音楽はアメリカ志向になり、しかも技術的には相当に洗練されたのは周知の事実。
だからというべきなのかもしれないが、リズムの桎梏を脱し、調性を無視するフリージャズ的アプローチは苦手というか、おずおずと共演しているのが微笑ましかった。フリージャズは全然フリーじゃないのだ。
しかしここに来て、遂にサックス対ドラムというフリージャズ定番の申し合いとなった。もはや遠慮はないとばかりに2人は実に鮮やかに、空間へのカリグラフィを繰り広げる。力技ではない。あたかも棋士の対決を見るように、互いの意思を図るべくサックスとドラムは感応する。
と、サブはお得意のエルフー(二胡)を持ち出す。これがまるで電子楽器のように、リボンコントローラー付きのアナログシンセ(しかも「学研」製か!)みたいに響くから素晴しい。犬まで共演している。

ところで何故フィリピンなのだろうか。演奏者に聞いてみたらわかるだろうが、それをせず、敢えてへんなことを考えてみた。
インド、東南アジア、ブラジルなどにはフリーが無いのか(アイアートのソロのタイトルではなく、様式としての)。どうも国情、国民性などでフリージャズが生まれる国、根付く国と、そうでない国があるようだ。いや国というより地域、文化圏というべきか。
そういう地域の音楽の傾向として、リズムの支配が強く(そこで話されている言語と関係がある)、固有の音楽文化が土着的に、生活共同体に生きているようだ。
これは日本国内でも似た傾向はあるように思う。九州も南の方、さらに南西諸島あたりで、孤立して非イディオマティックな即興演奏を追求している人はどれくらいいるのだろうか?
こうした生活においては、フリージャズ、フリーミュージック、インプロというような、若干観念的な方向性を志向しないのではないか。あるいは、もうその固有音楽の枠内でのフリーを謳歌している。なにもそこから逸脱する必要は無い。
誰が好んで脱臼、ヘルニア、脱腸になりたいものか。フリージャズは、収まりのつかない精神のサージ(=吹きこぼれ)なのだ。いや、過去にはそうだった。
チャーリー・パーカーよりオーネット・コールマンがフリーだなんて誰が思うだろう。しかし前者はビバップであり、後者はフリージャズなのだ。

カントリーマンとサブがフィリピンに新たな種をまいたとして、それは育つだろうか。いや別に育たなくても良いのだ。ただ、社会状況と天然自然の環境と人々の共同体が安定していれば、フリーだのインプロだの、非イディオマティックだのという方法論は生まれてくる必然性は無いのだから。

トラック6〜8は高木元輝へ捧げられていることを特記しておきたい。

♩ ChapChap Music
https://www.chapchap-music.com/

金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。「第五列」の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください