#2329 『臼井康浩+小宮勝昭/undulation』
Text by Akira Saito 齊藤聡
ROW project records
Yasuhiro Usui 臼井康浩 (guitar)
Katsuaki Komiya 小宮勝昭 (drums)
A1. dancing on the fire 火の舞
A2. swinging in space 宇宙遊泳
A3. the universe 森羅万象
B1. time undulation 時のうねり
all music by Usui Yasuhiro and Komiya Katsuaki
live recorded at Nanya, Nagoya, Japan, November 26th, 2023
recorded, mixed and mastered by Usui Yasuhiro
ギター演奏、作曲、国内外アーティストの公演オーガナイズなど、臼井康浩の活動は多岐にわたる。臼井の音が全方位的であるのはそれと無縁ではないだろう。即興演奏は人のありようだからである。
かれの演奏を観た者は強烈な印象を受ける。ギターをマテリアルとして使い、叩きも擦りもする。すなわちかれにとっては弦もボディも、あるいは共鳴させることも異音を放つことも公平なのであって、所与のヒエラルキーに従うことによる「つまらなさ」をみごとに回避している。このありようは、たとえばアントン・ヴェーベルンらの方法論を即興において発展させたデレク・ベイリーやジョン・ラッセルが1オクターブ内での調性を方法論的に拒否し、12音を公平に扱ったことと相似形だと言えなくもない。調性がないことは聴き手との世界の共有を容易にしないことでもあって、それゆえのおもしろさである。
なにも弦を弾くか弾かないかが問題だと言いたいわけではない。じっさい本盤でも弦の鳴りがためらいのない速度とともにあることがわかる。矛盾するようだが悦びに満ちた「ジャズギタリスト」のようでもある。<時のうねり>において<Lonely Woman>らしき瞬間があったことは愛嬌か。
以前に小宮勝昭の演奏を観たとき、大きな重力場がかれを中心として現出しているように感じられた。演者が手足を伸ばしてサウンドを作り上げてゆくのではなく、演者に音が集まってゆく感覚だ。それを可能にするには音楽の体幹ががっしりしていなければならないだろうし、本盤でバスドラムやスネアやシンバルの音を聴くと、中心の演者が揺れ動かずどっしりとして周囲を睥睨していることがわかる。
したがって、臼井のスピードやばりばりと切り裂くような音を受けて、小宮が脊髄反射のように動くことはない。あくまで自分のスタンスを維持しつつパルスを繰り出してゆき、縦波も横波も力強い。また、次のダッシュに向けた時間も遠くを視ながら策動しているように感じられて、それがまた全体のサウンドの欠かせない要素となっている。
本盤はヴァイナルでのみリリースされる。ふたりの個性をなまなましく感じるという目的だけのために、このような制約があってもよいのではないか。たしかに、録音されたなんや(名古屋)の空気を感じ取ることができる音だ。
(文中敬称略)