#2336 『ジム・クラウズ・カルテット / Taking Shape』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Park West Records
https://parkwestrecords.bandcamp.com/album/taking-shape
Jim Clouse (saxophone)
Ivo Perelman (saxophone)
William Parker (double bass)
Patrick Golden (drums)
1. Expanse
2. Valuable Member
3. Angel Of Truth
4. Back & Forth
Recorded at Park West Studios
Mixed/Mastered by Jim Clouse
Artwork by Seth Indigo Carnes
www.sic.studio
@soulincode
ブラジル出身のテナー奏者イーヴォ・ペレルマンは、NYに進出後、現在に至るまで異色の存在たりえている。初期作品の中では、スザンヌ・ヴェガの<Tom’s Diner>を取り上げた『Children of Ibeji』(1992年)や、セロニアス・モンクの<Blue Monk>だけをソロで何回も変奏した『Blue Monk Variations』(1996年)が極めて印象的であり、また当時話題にもなった。だが、それ以降は多様性や明るさよりもダークな音色での表現を一貫して追求してきたようにみえる。おそらくそこには覚悟があっただろう。はじめてその路線を明確なものとした作品は『Sad Life』(1997年)あたりではなかったか。そして、同盤前後から今回の『Taking Shape』に至るまで、ウィリアム・パーカーが重要な並走者であり続けている。
ウィリアム・パーカーをたんなる重量級ベーシストと捉えるのは一面的に過ぎる。本盤においてサウンドを推進する力はたしかに強力だ。しかし、そこで聴くことのできるピチカートは硬くも柔らかくもあり、まさにそのことがパーカーの包容力を示すものとなっている。うたう旋律も、同音を反復してぐいぐい押すときも、またサウンド全体を重力で叩き落すときもある。このメンバーの中でもずっとパーカーの指の腹をイメージできるのは驚異的だ。
終始折れることのない推進力という指摘は、パトリック・ゴールデンのドラミングにも当てはまる。ペレルマンとジム・クラウズのふたりのサックスに踊る場を与えつつ、パーカーと複雑精巧な歯車のように噛み合いながら、シンバルやブラシの響きを活力剤として、絶えずグループにエネルギーを注入している。上から下までの周波数を広く配する方向性はスネアのビートひとつとっても明らかである。本人に訊いたところ、指向する音に応じて底面の響き線(スナッピー)を付けはずしているのだという。そのようにきめ細やかな工夫を施すのも、全方位的な音が緊張感を失わない理由でもあるだろう。
クラウズのサックスはずいぶん特徴的であり、重力場の中での跳躍と運動、フラジオを多用する飛翔、顕著な音色の変化に驚かされる(パトリック・ゴールデンはかれのことをモンスターだと言う)。ペレルマンのサックスと対照的であるがゆえにサックス奏者がふたりいることの必然性があり、演奏の様子を幻視することもできる。そしてペレルマンの揺るがない濁流がつねにそこにある。
限りないエネルギーが聴き手に至福をもたらす録音だ。
(文中敬称略)