#1359 『David S. Ware & Matthew Shipp Duo / Live in Sant’Anna Arresi, 2004』
text by Takeshi Goda 剛田武
AUM Fidelity AUM100 (DSW-ARC02)
David S. Ware: ts
Matthew Shipp: p
1. Tao Flow (Part 1) (21:06)
2. Tao Flow (Part 2) (20:23)
3. Encore (4:29)
All compositions by David S. Ware & Matthew Shipp;
published by Gandharvasphere/Daswa (ASCAP)& Matt Shipp Music (ASCAP)
Recorded on September 5, 2004 by Paolo Zucca at Ai Confini tra Sardegna e Jazz, Sant’Anna Arresi, Sardinia, Italy
Mastered by Michael Marciano at Systems Two Studio, Brooklyn, June 2016
Cover Photo Portrait by Sylvia Plachy,“Matthew Shipp & David S. Ware, 1994”
© Sylvia Plachy; all rights reserved; used by permission
www.sylviaplachy.com
Liner notes by Matthew Shipp
Produced for release by Steven Joerg
汚れなき即興音楽の在り方を体現する正真正銘スピリチュアル・ジャズ
陽の当たらなくても世界の何処かで黙々と自分の世界を作りあげ、数は少なくとも熱意で勝る聴き手に向けて濃厚な意識を発信し続ける表現者に心が惹かれる。マイナー志向とか判官贔屓とか呼ぶのは自由だが、他人に迎合せずに正真正銘の自己表現を貫くには他に方法はないように思える。その意味で筆者が心酔する演奏家は、必ずしも世間で真っ当な評価を得ている訳ではない。
このアルバムの主人公デイヴィッド・S・ウェアも筆者にとって無性に愛惜しい存在ではある。しかしながら実はきちんと聴くのは初めてだったりする。セシル・テイラー・ユニットやアンドリュー・シリル&マオノのレコードで耳にしてはいたが、リーダー作を聴くまでには至らなかったことは、偏に自分の怠慢と勉強不足を反省するのみである。
2016年10月度のJazz Right Nowのコラム用にサックス奏者キア・ニューリンガーによるアルバム『バース・オブ・ア・ビーイング』のレビューを翻訳していて、受けた衝撃の大きさを自分の赤ん坊の逸話を交えて昂奮気味に語る熱に感染した。さっそくAUM Fidelityの再発CDを取り寄せようとググったところ、ウェアの未発表音源第二弾がリリースされたことを知り一緒にオーダーした。
デヴィッド・S・ウェア・アーカイヴ・シリーズ(DSW-ARC)という再発企画は、2012年10月18日、63歳の誕生日の前夜に亡くなったウェアの真価を世に問うべく、残された未発表音源の中から、選りすぐりの演奏をリリースするプロジェクトである。今後も続々リリリースされる予定のDSW-ARCに天国のウェアも喜んでいるに違いない。
1989年にウェア(ts)、シップ(p)、ウィリアム・パーカー(b)、マーク・エドワーズ(ds)により結成されたデイヴィッド・S・ウェア・カルテットは、ドラマーは3人メンバーチェンジしたものの、2006年まで17年間に亘りレギュラー・カルテットとして世界各地で演奏してきた。そんな長期間タッグを組んで来た割には、ウェアとシップがデュオで演奏したのは6回だけだったと言う。そんな数少ない貴重なデュオ・ライヴの2002年9月5日イタリアのサンタンナ・アレージ・ジャズ祭のステージを収めたのがこのアルバムである。
2つのパートに分けられたTrack 1と2はひと続きの長時間演奏。サックスとピアノが切れ目なく縦横無尽に交歓する有様は「TAO Flow(タオの流れ)」というタイトルがピッタリ。「宇宙の究極原理」(TAO=道)に導かれて自然に流れ出すフレーズが織り成すストーリーは、即興音楽本来の自由と歓びを全身全霊で謳歌している。60年代の闘争精神、70年代の屹立主義、80年代の折衷主義、90年代の先祖返り、そんな傾向と対策を乗り越えた先に辿り着いた共感の響きがこの40分間に充溢している。
二人はお互いに語り合うだけではなく、生きている歓びを聴き手に向けて放射する。それはキア・ニューリンガーが語るように、アルバート・アイラーの提示した『Music Is The Healing Force Of The Universe(音楽は宇宙を癒す力である)』という提言の本質を、自らの語法で再構築する試みに他ならない。ソウルやゴスペルの宗教観と混同されることが多い<スピリチュアル・ジャズ>という言葉を、生まれ落ちた時の汚れのない裸体に巻き戻す魔法の力を感じる。1994年に著名なNYの写真家シルヴィア・プラッチーにより撮影されたカバー写真の二人の無垢な表情は、汚れなき即興音楽家のスピリットを白日の下に晒している。
(2016年11月27日記 剛田武)