#2348 『Turbo Lotus』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Park West Records
https://parkwestrecords.bandcamp.com/album/turbo-lotus
Ayako Kanda 神田綾子 (Vocalizations)
Matt Hollenberg (Electric Guitars, Bass VI, Bulbul Tarang)
Patrick Golden (Drums)
1. Manners Of Chaos
2. Sidewinder
3. Unintentionally Aggressive
4. Notes And Tones
5. Edge Of Crazy
6. White Gold
7. Future Thoughts
Recorded at Park West Studios
Mixed/Mastered by Jim Clouse
Artwork by Seth Indigo Carnes
www.sic.studio
@soulincode
幕開け<Manners Of Chaos>の神田綾子のソロにいきなり驚きがある。30秒ものヴォイスには語りの力が凝縮されており、誰かの存在に依拠したものではない。だからこそマット・ホレンバーグのギターとパトリック・ゴールデンのドラムスが一気に参入しても彼女は独立な軸であり続ける。
強度という点ではマットもパトリックも神田と同じ領域にいる。三者の即興が緩んだり慣性に身をまかせたりする時間はまったくないのだが、それは、サウンド創出に向けてことさらに身構えての緊張によるものではないように思える。かといってリラックスして「遊び心」を放出した手合わせにもとどまらない。いつもの演奏でありながら力量をいかんなくフルスロットルで発揮した結果だ。
たとえば<Edge of Crazy>を聴いてみよう。気配が実在の姿となって現れ静かにたゆたうようにはじまり、聴く者はまずはその世界に連れてゆかれる。そして気配という煙のなかから次第に三者それぞれの顔が浮かび上がってくる。マットは大気に溶けていたアンビエントの要素から意思をもつエクトプラズムを造形する。パトリックは衒いなく精細なシンバルワークを用いたコンビネーションをもってあざやかな演舞をみせる。神田は仏教の経をアメリカにおいてトランスフォームする。
<Sidewinder>冒頭のパトリックのソロからは、かれのドラミングがじつにバランスの取れたものであり、バスドラムからシンバルまでの音の存在感がみごとに揃っていることを実感できる。全体性を保ちつつひとつひとつの打音が意味を持つものとして届くのはそのためだろう。パトリックが下から絶えず跳躍のヴェクトルを与え、その場に入ってくるマットは細かなフラグメントをばらまきつつも狂気的な繰り返しによる持続力を手放さない。神田もまた場のそこかしこに突然現れては消えるという離れ業をみせる。
さまざまな可能性が秘められたトリオであり、今後別の姿への変貌もあるだろう。
(文中敬称略)