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CD/DVD DisksNo. 320

#2357 『山口コーイチトリオ / アフレリ』

Text by Akira Saito 齊藤聡

UhauhaMusic

Koichi Yamaguchi 山口コーイチ (piano)
Kosuke Ochiai 落合康介 (contrabass, Morin Khuur)
Raiga Hayashi 林頼我 (drums)

1. Hazamagaoka internal
2. I Sing Alone
3. Hiding Shyness
4. Over Flow
5. Shizuku internal
6. Fighting in the Forest
7. Proton Decay
8. Blue, Grey, Brown
9. About Kindness
10. About Love
11. About Our World

Recorded at UhauhaMusic Tokigawa Studio 2024/5/2
Recorded and Mixed by Yasuyuki Takahashi
Produced by Koichi Yamaguchi

山口コーイチの演奏はどのような形態であれ普通ではない。渋さ知らズでも、AASでも、川下直広カルテットでも、シワブキでも。そこにはジャズピアノが役割として期待されるような和音やリズムによる音楽的な韻律が見当たらず、仮にそれらしきものが出てきてもつねにスピルアウトさせる感覚があった。サックスでいえばサム・リヴァース。山口本人はスタンダード曲のイントロばかりを弾くポール・ブレイ(ピアノ)に触発されたことがあったという(*1)。ブレイもまた不定形の凄みをもつ音楽家だった。山口は莫大な欲望が人間活動の源泉だと書いてもいる(*2)。もちろん山口もブレイも規律をもたないのではなく、自身の規律をもって内奥からの欲望の奔流を表現に昇華させているのである。

不破大輔(コントラバス)、つのだ健(ドラムス)と組んで山口が吹き込んだピアノトリオ作『愛しあうことだけはやめられない』と『circuit(回路)』を聴くと、三者の別様のエネルギーが噛み合って迫ってくるものを感じる。大きな船に乗ったようなグルーヴもある。

それに対し、本作は同じ楽器編成でありながら描き出す音風景がかなり異なっている。かれの視線の先には大きな船ではなくメンバーとの交感自体がありそうに思える。それは自発的に生まれるものが歪であろうと最善とするコミュニケーションであり、文字通り内部奏法を使った冒頭曲<Hazamagaoka internal>からその重さとするどさがわかる。

たとえば<Hiding Shyness>での落合康介の執拗な繰り返しにぐいと入っていく山口の迫力。<Shizuku internal>では落合の弓弾きと山口の策動が作り出すアンビエント的なサウンドに浮かび、林頼我がすてきに星を散らしてみせる。<Proton Decay>での凝縮された林のコンビネーションも、<Blue, Grey, Brown>において馬頭琴で別の色彩を足してみせる落合もすばらしい。そして、どの断面でも絶えることなく泉のように滾滾と音の流れを湧き出させる山口のピアノはやはりみごとだ。最後の<About Our World>の波涛が突然消滅したとき、そのことを強く感じさせられる。

(*1)ヴァネッサ・ブレイ(ピアノ)との共演時における山口の発言(2018/4/17、於サラヴァ東京)
(*2)山口コーイチトリオ『circuit(回路)』における山口のライナーノーツ

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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