#2359 『キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ポール・モチアン/ジ・オールド・カントリー』『Keith Jarrett, Gary Peacock & Paul Motian / The Old Country』
I Fall In Love Too Easily (Jule Styne, Sammy Cahn)
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
『Keith Jarrett, Gary Peacock & Paul Motian / The Old Country – More from the Deer Head Inn』
『キース・ジャレット・トリオ/ジ・オールド・カントリー〜モア・フロム・ザ・ディア・ヘッド・イン』
2024年11月8日リリース
ECM 2828 / ユニバーサル UCCE-1212:UHQCD ¥3,300 (税込)
Keith Jarrett: piano
Gary Peacock: double bass
Paul Motian: drums
Everything I Love (Cole Porter)
I Fall In Love Too Easily (Jule Styne, Sammy Cahn)
Straight No Chaser (Thelonious Monk)
All Of You (Cole Porter)
Someday My Prince Will Come (Frank Churchill, Larry Morey)
The Old Country (Nat Adderley)
Golden Earrings (Victor Young, Jay Livingston, Ray Evans)
How Long Has This Been Going On (George Gershwin, Ira Gershwin)
Recorded live at The Dear Head Inn, Delaware Water Gap, PA on September 16, 1992
1992年9月、キース・ジャレットとポール・モチアンが、アメリカン・カルテット解散以来16年ぶりに共演、ゲイリー・ピーコックとのピアノトリオで、ペンシルヴェニア州デラウェア・ウォーター・ギャップのジャズクラブ「Deer Head Inn」でライヴを行った。ここは1961年に16歳のキース・ジャレットにピアノトリオでのプロデビューの機会をオファーしたジャズクラブで、それ以来30年ぶりの出演だった。このライヴ録音は間を置かず1994年に『At The Deer Head Inn』(ECM1531)としてリリースされたが、30年を経て、マンフレート・アイヒャーとキースが選曲したスタンダード8曲を選んでリリースしたのが『The Old Country – More from the Deer Head Inn』(ECM2828)だ。
「この日の夜は、ポコノ山脈の暖かく湿った雨の降る秋の夜だった。部屋には人でいっぱいで、外のポーチではもっと多くの人が網戸越しに聴いていた」- キース・ジャレット
その日、130人の観客に、30人の立ち見、外でも立ち聴きしている人がいたというが、アルバムの音質が、その熱気と湿った空気感を伝えるようで、当時のスタンダーズのアルバムの乾いた研ぎ澄まされた響きと一線を画しているの興味深い。
タイムラインとしては、ポール・モチアン、チャーリー・ヘイデンとデューイ・レッドマンのアメリカン・カルテットが1976年5月録音の『Eyes of the Heart』(ECM1150)をもって解散。キース・ジャレット、ゲイリー・ピーコック、ジャック・ディジョネットが、ゲイリーの京都・蹴上で生活も踏まえて1977年2月に『Gary Peacock / Tales of Another』(ECM1101)を録音、そして、1983年1月『Keith Jarrett Trio / Standards Vol.1』(ECM1255)、『Vol.2』(ECM1289)、『Changes』(ECM1276)からスタンダーズトリオのレギュラー活動が始まり、2014年11月30日のトリオのニュージャージー・パフォーミング・アーツ・センター(NJPAC)でのコンサートで活動を終了する。この公演は筆者も目撃することとなった。31年続いたスタンダーズトリオ時代で、ジャック・ディジョネットの代役(トラ)にポールが入った、唯一の異なるメンバーのピアノトリオであるという視点で語られることが多いと思うが、他方、ゲイリー・ピーコック&ポール・モチアンのコンビは、菊地雅章、ポール・ブレイやマリリン・クリスペルなどをサポートしたピアノトリオのいくつかがあるので、このコンビにキースが参加したと視点を変えるとそのサウンドは興味深く、重要な一期一会であったことが見えてくる。
ジャック・ディジョネットとのスタンダーズが素晴らしいことは言うまでもないが、ジャックのよりドラマー的アプローチに対して、ポールはより自由に繊細に響きを創り出す。この3人でしか出せない神秘性や息遣い、繊細さ、躍動感は明らかに存在していて、キースがこのトリオでもう少し探求していたらというIFを考えてしまう。また、伝説のビル・エヴァンスのドラマーとの演奏はやはり特別であり続ける。実際のところは、ゲイリーとジャックが、いろいろな意味でストレスなく演奏とツアーと録音ができる特別な間柄だったということだろうか。じゃあ、ヨーロピアン・カルテットのヨン・クリステンセンの立ち位置はというと、空気感とサウンドを醸し出す上でジャックよりもポールに近いように思う。
筆者が、最も惹かれたのは2曲目の<I Fall In Love Too Easily>だ。スタンダーズトリオでもたびたび演奏しているが、それと比較してもピアノイントロでのキースが深く入り込み、繊細にコードを移ろいながら次のサウンドを探っていくのがとても美しい。トリオになってからも、音で埋め尽くされないほどよい空間がとても心地よく、音楽がすーっと入ってくる。
ポールが2011年に、ゲイリーが2020年にこの世を去り、キースは穏やかに暮らし、1994年の『At The Deer Head Inn』リリース当時とは違った耳で聴いている自分がいる。何かとても懐かしい。この唯一無二のライヴ録音が残され、続編がリリースされたことに感謝し、キースの末長い健康を祈りたい。
『Keith Jarrett, Gary Peacock, Paul Motian / At The Deer Head Inn』 (ECM1531)
Solar (Miles Davis)
Basin Street Blues (Spencer Williams)
Chandra (Jaki Byard)
You Don’t Know What Love Is (Gene De Paul, Don Raye)
You And The Night And The Music (Arthur Schwartz, Howard Dietz)
Bye Bye Blackbird (Ray Henderson, Mort Dixon)
It’s Easy To Remember (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
Deer Head Inn – Promotion Video