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CD/DVD DisksNo. 323

#2368 『Nanami Haruta / The Vibe』
『治田七海/ザ・ヴァイブ』〜アメリカデビューアルバム

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『Nanami Haruta / The Vibe』
『治田七海/ザ・ヴァイブ』

Origin 82911
Spice of Life SOLID-0005
2025年2月28日発売

Nanami Haruta 治田七海: trombone
Michael Dease: trombone, baritone saxophone (1,3)
Xavier Davis: piano
Rodney Whitaker: bass
Ulysses Owens Jr: drums
Chris Minami: guitar (11)

1 Girlie’s World (Renee Rosnes) (Arr: Chris Glassman)
2 The Vibe (Gregg Hill) (Arr: Michael Dease)
3 Algonquin (Curtis Fuller) (Arr: Chris Glassman)
4 Toshi (Nanami Haruta)
5 Sister Rosa (Christian McBride) (Arr: Chris Glassman)
6 Easy Money (Gregg Hill) (Arr: Michael Dease)
7 Heartstrings (Nanami Haruta)
8 How It Goes (Michael Dease)
9 Jamerson’s Lullaby (Rodney Whitaker)
10 Woodpecker (Nanami Haruta)
11 Unchained Melody (Alex North)

Produced by Gregg Hill and Michael Dease
Recorded, mixed and mastered by Corey DeRushia
at Troubadour Recording, Lansing, MI
Album cover concept & photography, Lynne Brown
Cover design & layout by John Bishop

2023年9月のデトロイト・ジャズ・フェスティヴァル、スタンディグオベーションとなった「KHAMSIN」のステージ。終演後のサイン会に「ジャズトロンボーンを学びにこちらの大学に来ました。」という日本人留学生がいて「あれ?七海さん?」。いや治田七海は単なるフェスの観客で来たのではなく、入学3日目のはずなのに、ロドニー・ウィテカー教授率いるミシガン州立大学カレッジ・オブ・ミュージック(MSU Collage of Music)の名門ビッグバンド「Be-Bop Spartans」のレギュラーとしてメインステージに立っていたという驚き。セイコー・ジャズ・キャンプで出会ったマイケル・ディーズ准教授に師事するためMSUを選び、全額奨学生として入学した治田だが、その1年後には師のプロデュースでアルバム録音。マイケルは自分と同じ楽器であるにもかかわらず、治田をしばしば自らのプロジェクトに抜擢しており、師弟を超えて、音楽の共演者として、未来のジャズトロンボーンの担い手としても治田に惚れ込んでいることが伝わってくる。すでに『Michael Dease / Found in Space: The Music of Gregg Hill』 (Origin 82906)にも参加している。このマイケルとグレッグ・ヒルが本アルバムのプロデューサーを務めた。


L: MSUでの師匠マイケル・ディーズと R: 治田七海 ©Lynne Brown

治田七海は2001年、札幌生まれ、5歳でピアノを、8歳で小学校のブラスバンドでトロンボーンを始める。13歳で札幌でのライヴ活動を開始。14歳、北海道グルーヴキャンプに参加しバークリーアワードを受賞、翌年米国バークリー音楽大学へ短期留学。17歳でセイコー・サマー・ジャズ・キャンプに参加してMost Outstanding Student Award(最優秀賞)を受賞。このとき教わったのがMSUで教鞭をとるマイケル・ディーズだった。MSU合格後にCOVID-19期となり、ミシガン留学が延期となったのは残念だったが、上京して国内での活動の幅を広げ、ファーストアルバム『II』、松本茜との『For My Life』などを録音しており、またさまざまなバンドのライヴに参加し、日本での人脈と存在感を確かなものにした。

一曲目<Girlie’s World>の軽やかなイントロから、ちょっとしたサプライズを経て、治田がメロディーを気持ちよく歌い上げる。アルバム全体を通して、治田の膨よかで深みのある音色に魅了され心に沁みる。それが豊かな響きのマイケル・ディーズと穏やかに絡み合うのを聴くのが至福で、聴いていて心が穏やかになる不思議な波動を持ったアルバムだ。治田とマイケルに寄り添いインタープレイをするリズムセクションはというと、ベースはMSU教授でもあるロドニー・ウィテカー、ドラマーに活躍が著しいユリシス・オーエンスJr.、ピアノにMSU准教授でもあるザヴィエル・デイヴィスというオールスターメンバーだ。治田作曲の3曲<Toshi>、<Heartstrings>、<Woodpecker>も歌心に溢れていて素晴らしい。今後の治田がどんな音楽を創っていくのか、そして世界に広がっていく活躍を楽しみにしたい。

【治田七海メッセージ】
アメリカに拠点を移してから1年半になりますが、その短い期間にも関わらず出会えたアメリカジャズシーンの最前線をゆくミュージシャンとのレコーディングが実現し、大変光栄に思っております。彼らの柔軟な音楽的選択のおかげもあり、頭から終わりまで楽しんでいただける一枚になりました。

Jazz Tuesdays with the Michael Dease Quintet (February 27, 2024)
Nanami Haruta(tb), Wayne Meinke(g), Laura Simone-Martin(b), and Jazz Tuesdays host Jeff Shoup(ds)

Jazz EMP2022 治田七海カルテット
治田七海(tb)、永武幹子(p)、高橋 陸(b)、中村海斗(ds)

”Angela” Akane Matsumoto Nanami Haruta 松本茜 治田七海

【Jazz Tokyo 寄稿記事】
追悼 Curtis Fuller by トロンボニスト 治田七海

【参考記事】
2019年のSeiko Summer Jazz Campで最優秀賞を受賞。札幌出身のトロンボーン奏者が語る、ミシガン州立大学への留学生活。(Interview by 菅野 聖)


L: MSU Be-Bop Spartans directed by Rodney Whitaker at Detroit Jazz Fetival 2023
R: KHAMSINと。柳原由佳、古谷充、清野拓巳、白石宣政、治田七海、松田”GORI”広士, at DJF 2023

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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