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CD/DVD DisksMonthly EditorialEinen Moment bitte! 横井一江No. 325

#50 大友良英、今年のリリース作品から
Old and New Dreams, Plays Christian Marclay, FEN

text by Kazue Yokoi  横井一江

今年に入ってから大友良英のアルバムが次々とリリースされている。

4月には新宿ピットインにおける年末恒例ライヴ、昨年は「Old and New Dreams」と題された 4 days 8公演のうち2公演がCD化された。これはモニュメンタルな作品といえる。

このCD化にあたって尽力した上原基章がレコーディングに至った経緯を本誌 No. 323 に寄稿しているが、そもそもは2022年の年末 4daysで大友と山下洋輔が共演したことに端を発する。確かに日本のフリージャズ界のレジェンドである山下と現在多方面で活躍している大友の共演を残したいと思い立ったのは良く分かる(→レコーディング雑記 by 上原基章)。chapter.2 『破』と題してCD化された公演では、山下洋輔と山崎比呂志が顔を合わせていることが貴重だ。なぜなら、大友のライナーノートによるとこの二人の共演は1960年代前半の「銀巴里」でのセッション以来だからだ。日本フリージャズの歴史を紐解くと、山下洋輔のコンセプトと高柳昌行のメソッドが異なっていたように、それは決して単純なものではなく、多彩なミュージシャンによる活動が絡みあっている。それゆえ、60年余り接点がなくても不思議ではないだけに、大友が組んだこのプログラムには驚かされた。大友は二人のレジェンドとの共演に潜在的可能性を見たのだろう。大友が触媒的な役目も果たしているが、実際またとない邂逅で、そのフレッシュな演奏に、日本のフリージャズの礎を築いたパイオニアゆえの覇気を感じた。

この企画にはchapter.1 『序』がある。こちらは現在活躍中のふたり、須川崇志と石若駿との共演で、大友の立っての希望でCD化された。誰もがレジェンドとの共演に目が行くことは分かる。だが、「Old and New Dreams」と名付けられた企画ならば、こちらのセットも出してこそ意味がある。そういう観点からも上原はいい仕事をしたと思う。自身より下の世代の二人との共演について、大友はセルフライナーノートで「ある意味彼らの背景にある「歴史」と彼らの抱えているであろう「不在」との共演でもあるような気がしている」と書いている。これは言い得て妙、まさにその通りだ。『破』と合わせて聴くと、空間の捉え方といい、即興演奏におけるアプローチの差異に世代の違いが現れているのもまた興味深い。

両アルバム共、一曲目が<ロンリー・ウーマン>なのが象徴的で、私は高柳昌行のソロ・アルバム『ロンリー・ウーマン』(TBM, 1982) を思い浮かべ、大友にとって高柳の存在は大きかったのだなと改めて感じた。また、この2作では少しつづ積み重ねられたギタリストとしての進化をあらためて認識したことも付け加えておこう。

ところで、『序』『破』とくれば『急』がないと収まりが悪いではないか。Chapter 3として『急』が制作されることを願いたい。

2月にリリースされた『Plays Christian Marclay』(Litte Stone Records) も楽しんだ。ターンテーブル奏者として大友は若い頃、クリスチャン・マークレーの演奏に触れ、衝撃を受けている。マークレーはターンテーブルをDJとは異なる文脈から演奏し始めたミュージシャン/アーティストであることは周知のとおり。彼がデイヴィッド・モスと来日したのは1986年、既にジョン・ゾーンは度々日本を訪れていた。日本の若いミュージシャンは彼らに少なからぬ刺激を受ける。モス&マークレー来日ツアーを行った際に、大友はそのアシスタントを申し出て、全公演について回っている(*1)。私が大友の存在を知ったのは黒田京子 ORT での演奏で、ORT が新宿ピットイン朝の部(*2)で演奏していた頃だから、たぶん1988年だったと思う。世田谷美術館の展示パティオ(中庭)での ORT の演奏を観たほうが先だったかもしれない。そのバンドでの大友の楽器クレジットは Noise Junk、ターンテーブルも演奏していたと記憶している。

2021年に東京現代美術館で「クリスチャン・マークレー  トランスレーティング」と題した展示会があった。そこに展示されていた『レコード・ウィズアウト・ア・カバー』は大友が所有するレコードで、そこで演奏も行っている。『Plays Christian Marclay』では展示会場やその展示会に合わせて収録された DOMMUNE での演奏の他、自身のスタジオでの録音が収録されている。使用しているのはクリスチャン・マークレーのレコードのみ、というユニークな作品。大友はマークレーの影響下からフィードバックなど独自の技術や手法を編み出してきた。『Plays Christian Marclay』はマークレーへのオマージュであると同時に、これもまた “Old and New Dreams“ なのである。ただし、この盤はレコード=ヴァイナルで出してほしかった!

4月には、2008年南フランスのフェスティヴァル・ミミ出演をきっかけに結成し、継続的に活動を続けているFEN (Far East Network) [大友良英、ユエン・チーワイ Yuen Chee Wai、顔峻 Yan Jun、リュウ・ハンキル Ryu Hankil ]の『4 × 4』(Meenna)もリリースされた「光州ビエンナーレ2018」でのシンガポールの現代アーティスト Ho Tzu Nyen とのコラボレーション・プロジェクトのために制作したサウンド・インスタレーション、各15分間の4トラックを収録した作品だ。ここでは、FENのメンバーとの活動から大友のまた異なったサウンド・アプローチが聴ける。FENの演奏を何らかの形で日本で観る機会が再び訪れることを期待しよう。

この4ヶ月にリリースされた4作品を聴くと、大友良英がいかに幅広いフィールドで活動しているかがわかる。それらが内面の奥深くで繋がっていることにより、それぞれの活動での独自性にも表れているに違いない。

 


Old and New Dreams chapter.1『序』

DIW948

⼤友良英 (g)  須川崇志 (b,vc)  ⽯若駿 (ds)

01.Lonely Woman (Ornette Coleman)
02.Improvisation#1
03.Improvisation#2
04.Improvisation#3
05.Improvisation#4
(Otomo Yoshihide / Takashi Sugawa / Shun Ishiwaka)
06.Ghosts (Albert Ayler)
07.the sky was so beautiful… Wed. Nov.18th 2022 (Otomo Yoshihide)

Old and New Dreams chapter.2『破』

DIW949

⼤友良英 (g)   ⼭下洋輔 (p)    ⼭崎⽐呂志 (ds,perc)

01. Lonely Woman 〜 Flutter (Ornette Coleman- -Otomo Yoshihide)
02. Improvisation#5 (Otomo Yoshihide / Yosuke Yamashita / Hiroshi Yamazaki)
03.Duo Improvisation (Yosuke Yamashita / Hiroshi Yamazaki)
04.the sky was so beautiful… Wed. Nov.18th, 2022 (Otomo Yoshihide)
05.Ghosts (Albert Ayler)

Live Recorded at Shinjuku Pit Inn 12/27/2024
Produced by Moto Uehara & Otomo Yoshihide
Executive Producer : Ryoko Sakamoto(diskunion/DIW)
Supervisor : Kenny Inaoka(Nadja21)
Recording, Mixing & Mastering Engineer : Koji C Suzuki(Sony Music Solutions Inc.)


Otomo Yoshihide Solo Works 2 “Otomo Yoshihide Plays Christian Marclay”

Little Stone Records LSR004

1  Translating Marclay
2  Play like him
3  Don’t Stop Now
4  Record Without a Cover B side
5  Records with Covers
6  One More Encore

Otomo Yoshihide plays only Christian Marclay’s records by Technics DJ turntables
Also plays Marclay’s record cover and Califone record player too (track 5)

Recorded: 2021~2024


4 × 4

Meenna

FEN
Otomo Yoshihide: guitar
Ryu Hankil: max/msp
Yuen Chee Wai: guitar and electronics
Yan Jun: field recording

Track 1 ~ 4

Mixed by Yan Jun
Mastered by Lasse Marhaug
Photo by Yuen Chee Wai
Cover design by Cathy Fishman
Disc design by Yuen Chee Wai


【関連記事】

#49 大友良英によるアジアン・ネットワーキングの軌跡
https://jazztokyo.org/interviews/post-109331/

【注】

1   https://tokion.jp/2023/12/27/interview-yoshihide-otomo-part2/

2  当時は「朝の部」「昼の部」「夜の部」の3部制だった。現在地に移転してから「昼の部」「夜の部」の2部制になった。

 

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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