JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 6,404

CD/DVD DisksNo. 327

#2390 『城戸夕果 /Brisa(ブリーザ)』

text:Takashi Tannaka 淡中隆史

2025/06/27
78 label FNFY-62 ¥3,000(税込)

1. Brisa / Yuka Kido
2. Joana Francesa / Chico Buarque
3. A Felicidade / Antonio Carlos Jobim
4. Anos Dourados / Antonio Carlos Jobim
5. Choratina / Johnny Alf
6.Desde que o Samba e Samba / Caetano Veloso
7. Para Voces Com Grande Carinho / Hermeto Pascoal
8. A Maninha / Chico Buarque
9. Eu E A Brisa / Johnny Alf

城戸夕果:Flute,Alto Flute
伊藤志宏:Piano
コモブチキイチロウ:Bass
岡部洋一:Percussion
ゲスト
EPO:Voice
Joyce Moreno:Vo
Lula Galvão:Gr

recorded at Freedom Studio
mixed at ABS recording
engineering, mixing and mastering: Tameo Kawada
produced by Bin Konno


1999年のLulu「ルルー」以来となる城戸夕果の新しいアルバム。
自作「ブリーザ」(そよ風)からジョニー・アルフの“Eu E A Brisa”(私とそよ風)まで9曲のラインナップ。
新進のブラジル音楽のフルーティスト城戸さんと出会ってスタジオを共にしたことを思い出す。それは彼女のファーストアルバム「YUKA」(1991)と同じころだった。彼女の最初の一歩は興味深いことにストレートなジャズのアプローチだった。この出発点、デューク・ジョーダン(p)、吉野弘志(b)とのトリオによるジョーダンの素晴らしいソングブックは、なぜか、1997年にジョーダン名義のリーダー作「Heart Skips」に変わって再発売されてしまうのだが。

「YUKA」に先立つ1990年に城戸さんは初めてブラジルを訪れ、リオデジャネイロで小野リサのセカンド・アルバム「NANÃ(ナナン)」の録音に参加。このコラボレーションが契機となり、その後ブラジル音楽に魅せられた軌跡をえがいていく。
続く90年代前半〜中盤はリオに長期滞在して、ジョイス・モレーノ、ジョアン・ドナート、カルロス・リラなどレジェントたちと活動、録音にも参加した。ボサノヴァの先駆者ジョニー・アルフのバンド・メンバーとしてブラジル国内ツアーも行ったほか、90年代後半は日本で自身のバンドのほか宮沢和史のブラジル・プロジェクト「JABATIDA」のメンバーにもなった。2000年以降は、外交官である夫君に同行しベルギーへ、2014年からはブラジリア、2017年からはボストンと、海外で生活しながら音楽を磨き続けた。

ディスコグラフィカルに「YUKA」以降の城戸さんのリーダー作を追ってみよう。
XUXU「シュシュ」(1993)
リオ録音、自作中心のインスト集。今もコラボレーションが続くルーラ・ガルヴォン(g)をはじめ、やマルコス・スザーノ(perc)、ジョイス(現在名ジョイス・モレ―ノ)(voc)たちが参加。
refined.. 「リファインド」 (1994)
コペンハーゲンでのレコーディング。N-H Oペデルセン(b)、マリリン・マズール(perc)、ウルフ・ワケーニウス(g)たちと録音したスタンダードナンバー、ブラジル音楽、4作の自作による。
Rio Smiles「リオ・スマイルズ」(1994)
「シュシュ」の編成を拡大して10人を超えるブラジルの仲間たちと作った9曲。リオに棲む空気感に満ちている。
Aracuã「アラクアン)」(1996)
フィロー・マシャード(g、voice)をフィーチャー。ブラジル内陸の湿原地帯パンタナールでアラクアン(という鳥)の声とのフィールド・レコーディングも行った。
CASA「カーサ」(1988)
一転して全曲自作による国内録音。ギターとアレンジにショーロクラブの笹子重治を起用。同じくバンドリンの秋岡欧(bandolim,g)のほか、八尋洋一(b)、岡部洋一(perc)などは現在も共演する人たち。「ブリーザ」につながる日本のブラジル音楽の芽がある。
Lulu 「ルルー」(1999)
前作を引き継ぐメンバーを中心として自作とジョイス、ジルベルト・ジル、ジョビン、カエターノ、エルメート・パスコアールによるブラジル音楽集。
笹子重治(g)、八尋洋一(b)、岡部洋一(perc)などが参加。

2020年からは拠点を日本に移し、多彩な国際経験を生かしてジャズ〜ブラジル音楽〜自作曲へと続く路を開き続けている。
最新作「ブリーザ」は 「ルルー」以来半世紀ぶりの新作。1998年の「カーザ」以降、日本のブラジル音楽を追求する音楽家たちとの理想的なブラジリアン・ジャズフルートの世界が広がる。
現在のライブメンバーでもある伊藤志宏(p)、コモブキイチロウ(b)、岡部洋一(perc)のリズムセクションに加えてEPO(voice)の他ジョイス・モレーノ(vo)とルーラ・ガルヴォン(g)が再び集まった。
あらためてジョビン、シコ・ブアルキ、カエターノからパスコアールまで、1950年代末のボサノヴァ初期から1990年代のMPBに至るブラジル音楽が鳥瞰できる。
端正な城戸さんのプレイはテーマとアドリブ、主題と変奏を折り目正しく展開して、その美しい佇まいは出発点がジャズであることをあらわしている。
インタビューで「私は南米と長く関わってきたので、それぞれの土地で移民たちが育んできた音楽を自分たちで融合させて、その上で自由にインプロヴィゼーションをする、というのはコンセプトの中でも魅力に感じています。」と答えているように、ながく城戸さんは自身の音楽を世界の中で培ってきた。帰国後、新たに日本人演奏家たちとの共演履歴も広がる。ヒロ・ホンシュク(fl)をはじめ沢田穣治(b)、馬場孝喜(g)、藤本一馬(b)などブラジル音楽に一つのルーツを持ちながら独自の展開を行ってきた人たちとの語らいは続く。新しい次のステップへの予感がきこえてきそうな期待に満ちた新作だ。

淡中 隆史

淡中隆史Tannaka Takashi 慶応義塾大学 法学部政治学科卒業。1975年キングレコード株式会社〜(株)ポリスターを経てスペースシャワーミュージック〜2017まで主に邦楽、洋楽の制作を担当、1000枚あまりのリリースにかかわる。2000年以降はジャズ〜ワールドミュージックを中心に菊地雅章、アストル・ピアソラ、ヨーロッパのピアノジャズ・シリーズ、川嶋哲郎、蓮沼フィル、スガダイロー×夢枕獏などを制作。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください