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CD/DVD Disks~No. 201

#926-B 『Dislocation / Mud Layer Cake』

Text by 伏谷佳代 Kayo Fushiya

Dislocation:
柳川芳命(alto sax)
ガイ(guitar)
岡崎豊廣(electronics)
モリキミホ(ds)

View1.
View2.
View3.
View4.
View5.

ライヴ・レコーディング@名古屋K.D.JAPON/Day Trive*
2010年6月12日(View1.& 2.)
2010年8月10日(View 3.)
2010年7月10日(View 4. & 5.)*

編集/デザイン:岡崎豊廣


もう一枚は、同じく柳川芳命の代表的なプロジェクトのひとつである“Dislocation”の最新作。こういう時代にあって、ミュージシャンたちも一極 集中しないことは素晴らしいことで、移住者が多い東京シーンとは違った意味での「根を張った」濃密さを名古屋周辺シーンはもっているようだ。キャラが濃く、無意識の摺合せがないのが気持ち良い。国際的にもすでに高い評価を得ている“Dislocation”だが、その名称がふくみ得るところの、規定からの転置・逸脱といった堅苦しい想念に捉われる隙を与えない。もちろん瞬間は増幅して非常な強度をもっており、その持続が聴いている者の時間感覚を麻痺させるが、単純にノリに還元される引き際の良さがある。一般的にノイズ系の音楽というと、瞬間の泥に捉われる引き伸ばし感・その爆音のシミばかりが後味として残るものなのだが、そうしたこれ見よがしの「のさばり」はあまり感じない。『Mud Layer Cake』がここまで肌理濃厚にして爽快なのは、モリキミホの叩き出すロック魂濃きドラミングの所以か。音の泥が動いてゆくシフト感が体感される(移層であり移相)。個々のミュージシャンが吐き出す音楽はそれぞれが強靭で、全員がいっときに異なる文脈をぶつけ合うような圧迫会話を彷彿とさせるものの、水面下でなみなみと湛えられる充実のソロ。肝の据わったまろやかさも同時に遺憾なく降り注ぐ。KDハポンを中心に行われた複数のライヴ収録盤。ひとつの時空に生じ得る、無数の断層の切り口、その同時多発性の鮮やかさ。聴衆のノリも小山彰太の『悪くない』とはまた違ったエキサイトぶりで、場の雰囲気をよく伝えている (*文中敬称略)。

<関連リンク>
http://www.publiceyesore.com/

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。欧州に長期居住し(ポルトガル・ドイツ・イタリア)各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評(月刊誌/Web媒体)、演奏会プログラムやライナーノーツの執筆・翻訳など多数。

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