#1411『Mostly Other People Do The Killing / Loafer’s Hollow』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
Hot Cup 161
Moppa Elliott (b)
Steven Bernstein (tp,slide tp)
Jon Irabagon (ts,ss)
Dave Daylor (b-tb)
Brandon Seabrook (banjo,electronics)
Ron Stabinsky (p)
Kevin Shea (ds)
- Hi-Nella
- Honey Hole
- Bloomsburg (For James Joyce)
- Kilgore (For Kurt Vonnegut)
- Mason And Dixon (For Thomas Pynchon)
- Meridian (For Cormac McCarthy)
- Glen Riddle (For David Foster Wallace
- Five (Corners, Points, Forks)
Recorded by Ryan Steber at The Bunker Studios, Brooklyn NY, on March 25, 2016.
過去の名作のパロディを隠れ蓑に、アヴァンギャルドなプレイを繰り広げるベーシストのモッパ・エリオットが率いるユニット、モストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリングは、結成13年目を迎えて意気軒昂な活動を繰り広げている。通算10枚目のアルバムの本作では、俊英ジョン・イラバゴン(ts,as,ss)がフロントを担った前作『Mauch Chunk』のクァルテットに、セックス・モブ、ミレニアム・テリトリー・オーケストラを率いるパロディ・アヴァンギャルド・バンドの先駆者、スティーヴン・バーンスタイン(tp,slide tp)、大ヴェテラン・バス・トロンボーン奏者のデイヴ・テイラー、バンジョー/ギターを変幻自在に操るブランドン・シーブルックが加入し、厚みを増したアンサンブルで、今回は1930年代のスウィング時代にスポットを当てた。2013年にリリースした1920年代の音楽を採り上げた『Red Hot』の続編ともいえるアルバムだ。
本作のタイトル『Loafer’s Hollow』は、リーダーのエリオットの出身地、ピッツバーグの南に位置するペンシルヴェニア州サウス・パーク・タウンシップに1833年に設立された図書館の旧称からつけられた。20世紀文学を代表するアイルランド出身の作家、ジェイムス・ジョイスや、現代アメリカの作家たちに捧げられた5曲の文学組曲が、アルバムの中核をなしている。”Bloomberg (for James Joyce)”は、ジョイスの代表作『ユリシーズ」のエンディングを飾るモーリー・ブルームのセリフをモチーフに作曲された、ロン・スタビンスキー(p)のスライド奏法とシーブルックのバンジョーのバッキングに乗って、ホーン・プレイヤーたちがミュートを変えて4小節ずつソロ交換をする、ユーモラスとスリリングさが同居するMOPDtKならではの展開を聴かせる。20世紀のアメリカ人作家で最も広く影響を与えたと言われるカート・ヴォネガットには、その作品の中でしばしば登場する作者自身が自己投影したキャラクター、架空のSF作家のキルゴア・トラウトの名を冠した”Kilgore”を捧げる。デイヴ・テイラーもヴォネガットへ愛を込めたプレイで口火を切り、イラバゴンが、リズム陣、ブラスをオフにしたフリーキーなソロ・サックスを聴かせ、スタビンスキーもソロ・ピアノを執る、アルバムの中で最も長く起伏に富んだ一曲だ。ポスト・モダン文学の旗手トマス・ピンチョンは、ペンシルヴェニア州の地名にちなんだタイトルをつけ、作品中に詩が登場する作家だ。”Manson and Dixson”は同作に登場するペンシルヴェニア州とメリーランド州の境にあるとされる架空のイギリス系の測量会社の名前である。エリオットは作中の詩にメロディをつけて作曲し、シーブルックとイラバゴンが同時進行のソロを聴かせてくれる。ピンチョンと並び称される作家コーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン』の、暗く不気味なエンディングに触発されたのが”Meridian”だ。ノスタルジックな雰囲気の中で、バーンスタインが、トランペットの低音域を強調した縦横無尽のソロをとる。2008年に46歳で生涯を閉じた、デヴィッド・フォスター・ウォレスは、ピンチョン以降の最重要作家の一人。”Glen Riddle”は、その作品に登場するペンシルヴェニア州の架空の町である。エリオットはウォレスの代表作『Infinite Jest』のコンセプトは、ここ数年MOPDtKが追求するテーマと共通すると語る。この組曲以外にも3曲のエリオットのオリジナル・チューンが、アルバムではフィーチャーされている。ジェリー・ロール・モートン(p)ら1930年代の音楽をモチーフとした曲などに、ハーモニー、リズム、インプロヴィゼーションの随所に21世紀の視点が盛り込まれていることに驚かされる。スティーヴン・バーンスタインは「前時代に模倣する音楽がなかった、1920年代、30年代のデューク・エリントン(p)の音楽が、ジャズ史上最もクリエイティヴな音楽かもしれない」という仮説に基づき、エリントンのジャングル・サウンドのグループの編成で、エリントンから、ビートルズ、プリンス、スライ&ファミリー・ストーンをカヴァーする驚異のバンド、ミレニアム・テリトリー・オーケストラを結成し、ヘンリー・バトラー(p,vo)との出会いから、同グループはブルース、ニューオリンズ・サウンドを追求するHot 9へと変貌を遂げた、モッパ・エリオットも『Loafer’s Hollow』で、1930年代の音楽と20世紀文学の融合を現代の視点から図るという、壮大な実験を聴かせてくれた。
2月19日のニューヨークのコーネリア・ストリート・カフェでのリリース・ギグには、ジョン・イラバゴンに代わってブライアン・マレイ(ts)が参加した。アルバム以上にアグレッシヴ&アヴァンギャルドなプレイに、様々なガジェットを使い、遊び心もたっぷりな高いエンターテインメント性も聴かせてくれた。10枚のアルバムで、様々な時代の音楽にスポットを当て、検証、更新を図ってきたモストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリングだが、次作では何処へ針路を取るのか注目される。
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この一枚2016(海外編)#6 『mostly other people do the killing / MAUCH CHUNK』望月由美
常盤武彦、Mostly Other People Do the Killing、モッパ・エリオット、MOPDTK、モストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリング、Moppa Elliot、Steven Bernstein、スティーヴン・バーンスタイン