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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 230

#1417 『James Brandon Lewis Trio / No Filter』

2017年6月7日CD/LPリリース
BNS 032 © 2017 James Brandon Lewis Music

JBL Trio:
James Brandon Lewis (ts)
Luke Stewart (b)
Warren Trae Crudup III (ds)

Special Guest:
P.SO the Earth Tone King (MC) (M-3)
Nicholas Ryan Gant (vo) (M-6)
Anthony Pirog (g) (M-3 and 6)

1. Say What
2. No Filter
3. Y’All Slept
4. Raise Up Off Me
5. Zen
6. Bittersweet

Photo by Thomas Sayers Ellis
Album Layout and Design by Renee Maskin
Recorded at Strange Weather, Brooklyn NY by Daniel Schlett
Mixed and Mastered at Desert Park, New York NY by Boone McElroy

ジェームス・ブランドン・ルイス(JBL)は1983年NY州バッファロー生まれのサックス奏者である。そのテナーのプレイスタイルやこれまでの活動からは、NYシーンの「メインストリーム」を着実に歩んできたように見える。

デビュー盤『Moments』(2010年)を経て、『Divine Travels』(2014年)では、ベースのウィリアム・パーカー、ドラムスのジェラルド・クリーヴァーという、先鋭的な領域で評価を確立した面々との共演を果たしてみせた。そこに聴くことができるものは、オーソドックスなテナーでありながらも、バップやロフト以降の伝統によりかかることのない、個の強い音であった。そしてまた、トーマス・セイヤーズ・エリスによるポエトリー・リーディングを加え、ジャンル越境への意欲を示した。

続く『Days of Freeman』(2015年)における共演者は、NYシーンにおいて存在感を示すルディ・ロイストン(ドラムス)に加え、ジャズ・ファンクの大御所ジャマラディーン・タクマ(ベース)であった。そしてまた、数曲においてHPrizm (aka High Priest)がビートを提供し、スーパーナチュラルがMCとして参加した。ここにきて、彼はヒップホップ/ラップとの融合を図りはじめたように見える。もっとも、当人にとっては自身の抱え持つサウンドの指向性を形にしただけのことであっただろう。

本盤『No Filter』も、これまでと同様に、ベース、ドラムスとのサックストリオを基本にしている。シーンにおいてプルーヴンなゲストを迎え入れた形でないだけに、さらに自然体で勢いがあるサウンドとなっている。いきなり冒頭曲において「Say What!」との掛け声とともに疾走し、ストリート感覚が何のためらいもなく爆発しているようだ。JBLのテナーは低音を活かしつつスピーディーに管をフルに鳴らす。また、ルーク・スチュワートのベースはファンク感たっぷりであり、ウォーレン・”トレエ”・クルーダップ3世のドラムスがスチュワートともにサウンドを駆動する。このダイナミックさと勢いとは前作よりかなりグレードアップしているのではないか。

「Y’All Slept」の1曲においては、P.SOジ・アース・トーン・キングが参加し、ベース・ドラムスのビートに乗って、アンソニー・ピログのギターと並走して、肉声らしさが爆発しつつもスタイリッシュでもあるMCを聴かせる。かつて、テナーサックスのゲイリー・トーマスが『The Kold Kage』(1991年)においてラップを取り込み話題にもなったが、いま改めて聴いてみると、それは要素のひとつに過ぎなかったように聴こえる。マイルス・デイヴィスも、晩年にはヒップホップを取り込もうと野心をたぎらせ試行した。そこから四半世紀が経った。先述のHPrizmは、マイク・ラッドがポエトリー・リーディングを吹き込んだアルバム(Illtet『Gain』、2014年)や、スティーヴ・リーマン(アルトサックス)のアルバム『Sélébéyone』(2016年)にセネガルのMCらとともに参加したり、ヴィジェイ・アイヤー(ピアノ)と共演したりもしている。

もはや、ラップとジャズとはまるで昔から同じ場を共有していたかのように共存し刺激を与えあっており、自然体でのカッコよさを求めることは、ロバート・グラスパーなど超売れっ子たちの専売特許ではなくなっている。本盤もしかり、すなわち、カギカッコ付きで大文字で語るようなことではないのだ。そして、この先、コラボレーションが如何に多様化するかという、次の段階に入っている。爛熟はこれからだ。

アルバムを締めくくる「Bittersweet」には、ニコラス・ライアン・ガントが高く甘いヴォーカルで参加している。彼はNYを拠点とする歌手であり、カーティス・メイフィールドの「The Makings of You」をオマージュとして歌ったりもしている。ジャズとメイフィールドということで言えば、たとえば、JBLの前作でも共演したウィリアム・パーカーがメイフィールドの曲を取り上げたプロジェクト(『The Inside Songs of Curtis Mayfield – Live in Rome』、2007年、など)があった。そのとき、パーカーは、「カーティス・メイフィールドを聴いて育ったし、その音楽は、カウント・ベイシーとも、コールマン・ホーキンスとも、オーネット・コールマンとも、セシル・テイラーとも、ビル・ディクソンとも、ルイ・アームストロングとも別々のものではない」と書いていたわけだが、本盤を聴いたいまとなっては、ジャズにとって、R&B/ソウルとの共存にあたり、ヒップホップ/ラップと同様、確かに、何も構えた大作など必要ないのだということが実感される。

本盤は期待通りの傑作であり、また、次のJBLのさらなる飛翔を震えて待ちたいという気持にさせられるシーズでもある。

(本文敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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